第77期 #16
これはもう、すでに日課となっている。
毎日毎日、自分の左手首を睨みつけては、ため息だか深呼吸だかわからないものを吐き出しているのだ。ただでさえ、こんなにひ弱でなまっちろい肌をしているのに、普段あまり日に当たることのない内手首なんて、全身の皮膚の中でも相当薄っぺらいだろう。そんなところにこのカッターナイフなどが触れようものなら、その傷をきっかけに手首が自らの重みで裂けて、ずるっと落ちてしまいそうだ。そんなことを考えながら、いつものように、暗く埃臭い音楽準備室でひとり脂汗をかいている。
真っ黒いカーテンの向こうでは、聞き覚えのある男子たちの声が弾んでいる。そのカーテンの隙間からは、夏の強い光の筋がいくつも突き出していて、無数の埃がその光の中をキラキラと舞っていた。それをぼうっと眺めながら「もう少し生きてみようか」などと脈絡のない結論が頭をよぎったところで、チャイムが鳴る。教室に戻り、5時限目の授業を受けて、帰宅、テレビを見ながら夕食をとり、風呂に入って寝る。
ベッドの中で、明日こそは、と胸に誓う