第76期 #4

歪み

「ママ?」
くぐもった息子の声がクローゼットから聞こえているというのに、私はクローゼットを開けようとはしなかった…。



−−−夫が浮気をする人だと知っていながら、私は結婚をした、わかってはいてもやはり夫から女性物の香水のかおりがすると、どんな女を抱いてきたのだろうか?と考えずにはいられなかった。
私は夫を待つのが段々と嫌になっていた…
いくら待っても夫は私を愛してはくれない。わかっているはずだった…それでもどこかで私は夫に期待していた、いつかは私だけをみてくれる…
そんな夢物語…叶うはずがないのに。

「ねぇ…あなた、今日は何時頃になるの?」
「いきなり、どうした?」
夫は不思議そうに私を見た、私が普段そういったことを聞かないからだろう。
「なんでもないわ…」
本当は、結婚記念日だから…でも、これは夫が気付かないと意味がない。
「そうか?じゃあ行ってくる」
「えぇ、いってらっしゃい」
帰ってきて…私の元に…


−−−「ただいま」と言う声をついに私はその日聞くことは出来なかった。

私の心はその日、壊れてしまった。



−−−夫が帰ってきたのは次の日の早朝、私は平静を装って夫を出迎えた。
「残業?」
「あぁ…ちょっと…」
嘘つき…首からキスマークがのぞいているじゃない。
「お茶、飲む?」
「あぁ」
私は睡眠薬入りのお茶を差し出す。
一気に飲み下す夫…
「すまん…少し寝てくる。」
「えぇ」

しばらくすると規則正しい寝息が聞こえてくる…私は肉切り包丁を手にし夫の元へ行くと、ロープで手足を縛り、ベットへと繋いだ、そして…足の肉が切れたところで夫が目を覚まし、信じられないという目で私を見ながら暴れ、叫んだ。
「あなたが悪いのよ…」
私は切れにくい骨を何度も何度も肉切り包丁で叩き切りながら言った。

夫が気絶してしまったころ、息子が私を見つけ、泣きじゃくった、「パパどうしたの?ねぇ!ママーやだー」
私は息子をクローゼットへ押し込み耳を塞いだ…


この家から人が出てくることは二度となかった…。


Copyright © 2009 のい / 編集: 短編