第76期 #3

蜘蛛

ベッドの下で見つけた「ひとつなぎの財宝」の魅力に抗いながら俺は机に向かう。ニコロビンの「生きたい!!」に対して「任せろ!!」とコブシを高く突き上げ答えたい気持ちをグッと押さえ、そのグッを運動エネルギーに変えてデスクトップのOSを机から下ろした。危うく板橋区で海賊王になるところだった。OSはその文明の利器としての尊厳を失い代わりに誇りを、ではなく埃をその身に纏っている。ジーザス。エアコンで言うところの室外機、通風孔、ダクト??正式名称は分からないが裏側の色々線をつないである近くに蜂の巣みたいに穴が空いていておそらく中でフル回転している頭脳の熱を外へ放射しようとしている(と俺が勝手に予想している)所に埃の塊が体育の時使う薄っぺらくて汚い体操のマットみたいに張り付いていて、そこに埋もれて蜘蛛が死んでいた。

蜘蛛は俺を見ている。気がした。

なんだよ。何見てんだよ。確かに俺は掃除をしばらくと言うか一度読んだ事のあるマンガがベッドの下でまた新鮮な面白さを取り戻すまでしなかったがお前を殺したのは俺じゃないだろ。そもそもお前が埃にまみれて死んでいったのかそこで死んでから埃にまみれていったのか分からないじゃないか。クリストファーロビン「ねぇプーさん、そこで何をしているの??」プーさん「何もしないをしているんだよ」そうなのか。俺が掃除をしないをしていたからお前は死んだのか。少なくとも俺が二人のロビンと戯れている間に蜘蛛が死んだのは間違いない。合掌。

もうなんかヤル気を失ってしまってユニットバスにお湯を張って罪と罰を読みながら湯船に浸かる。180cm近い俺が狭いユニットバスに浸かるとさながら胎児のようになり母の胎内で安らぎを得ようとしているように見えないでもない。ラスコーリニコフはアホだ。ヘタレなのは勝手だが最愛の妹の幸せをぶち壊してまで罰というカタルシスを得たいのか??壮大なマッチポンプ物語だ。腹が立って5ページも読まずに風呂から上がった。つーかもっと登場人物を分かりやすい名前にしやがれョーヴナ。くそ。俺は服を身に付けると髪を乾かさずにビールとついでにコロコロ(コミックではない)を買おうとコンビニへ向かう。湯冷めをして風邪をひけばそれが俺に対する罰だ。「え、俺なんもしてねーんだけど」がもはやエクスキューズとして機能しなくなった事を悲しみつつ、掃除が終わったら次は芥川を読もうと決めた。



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