第76期 #18
世界を支配するために必要なのは権力か、財力か、あるいは武力か。古来多くの者がそれぞれの方法で支配をもくろみ、しかし未だ誰も完全な支配をなしえていない。それは方法が間違っているからだ。支配に必要なのは、未来を知り、それを握ることだ。だから俺は、アカシック・レコードと呼ばれるこの世界のすべての事象の記録を探していた。
異郷の街、あるいは秘境の地を、一人で、あるいは仲間と組んで求め歩いた。危険など元より承知の上だ。最も油断ができないのは、同じ目的を持つ仲間だ。誰もが他人を利用するだけ利用して最後に葬り去ろうとしている。数え切れないほどの死を見、俺自身も多くを殺してきた。罪悪感など、世界の支配には無用のものだ。支配とは生殺与奪を握ることに他ならない。
人を殺すことばかり上手くなった。俺はすでにその筋では名が通っており、接触を試みる者、つまるところ俺を殺そうとする者がごまんといる。しかし手がかりを得るためには、そのような者に俺の方から接触しなければならないこともある。そのすれ違いざまのひらめきの中、俺は辛くも生を拾い続けていた。
ある村に予言の祭壇があると言う。よくある話だ。予言などと言うのは大抵、適当に言ったことを事実にこじつけるものだ。しかし俺は村へ向かった。確実な情報などあるはずがない。しらみつぶしに当たるだけだ。夜影に紛れて、俺は村の祭壇へと忍び込んだ。
祭壇にあったのは、夜の闇よりもなお暗い、漆黒の小さな球体だった。手に取ると、情報が血液のように俺と球体の間を循環しだした。俺はその中からこの瞬間の事象を探した。本物ならば俺がアカシック・レコードを手にしたことが記録されているはずだ。
あった。間違いない、これが本物のアカシック・レコードだ。これで俺は未来を握ったのだ。手始めにここから無事に脱出するために、村人の行動を読み取ろう。俺はこの村の直近の未来の事象を探した。人が死ぬ。またいつものことか。誰が……俺?
瞬間、喉から噴き出したものが球体を持っていた手にかかり、俺の中を流れていた情報も、それと一緒に噴き出してしまったかのように途切れた。ようやく俺は間違いに気がついた。たとえアカシック・レコードを握ったとしても、アカシック・レコードの支配からは逃れられないのだ。俺はその絶対の真実をすべての者に知らせたかったが、その方法はアカシック・レコードには記録されていなかった。