第76期 #13
「星、見えないね。さっきまでは晴れてたのに……。」
「この天気じゃあ、仕方ない。ま、こんな日もあるさ。」
頭上には星空の代わりに灰色の空。今日は丘の上で天体観測をする予定だった。だが、あいにくの天気のため、中止になってしまった。楽しみにしてたのに……。望遠鏡を片付ける彼の横顔を見つめてみる。多少残念そうではあるが、たいして落ち込んでる風でもない。楽しみにしてたのは私だけ?
「何?」
「あ、えっと……なんでもない。」
気付かれてしまったのであわててごまかす。彼は知っているだろうか。私が単に星を見ることだけを楽しみしていたわけではないということを。
「あのさ……、」
黙々と片付け作業を進めてた彼が唐突に口を開いた。
「そんなに気にすること、ないと思うよ。」
「……なんで?」
「今日がダメでも明日があるじゃん。明日は晴れる。快晴だよ。絶対。」
「なんでそんなに確信持って言い切れるの?」
「ま、天才だからさ!……あ。」
見て、と言って彼は眼下の街を指さした。そこに広がっていたのは、一面の光の海。
「綺麗……。」
「地上にも星はあるんだなぁ……。ね、せっかくだからもうちょっと見ていこうよ。」
本当に、綺麗だった。ふと彼を見ると悪戯っぽい笑みを浮かべ、私の耳に口をよせて言った。
「本当は二人でいれさえすれば、天気なんて関係ないのさ。」
たとえ曇りの日があったとしても、二人でいるときは何時だって心は晴れ模様。
翌日の夜に彼の「予言」が現実になったのは、また別の話。