第75期 #9

SILENT IN THE MORNING

  小鳥のさえずりが聞こえる。もう朝か、そう思って僕は目を開けた。薄明るい光が窓から差し込んでいる。僕はしばらく天井を見つめていた。
 時計を見た。五時二十分だ。僕はしばらく考えたあとで、散歩に出ようと決めた。ベッドから降りた僕は、トレーニングウェアに着替えた。そして、玄関から外へと出た。
 薄い太陽の光が僕に降り注いだ。僕は右の手のひらで顔を少し隠して、太陽を見上げた。
 少し眩しいが、日中の光に比べれば、まだましだ。僕は自分の住んでいる町を散歩し始めた。
 しばらく歩き、横断歩道に差し掛かった。車は、全く走っていない。信号機はすぐに赤になり、僕は立ち止まり、横断歩道の向こう側を眺めた。
 誰もいない。まるで、この町で起きて、動いているのは僕だけのようだ。
 その光景は、少し、僕に廃墟を思わせた。僕は誰もいない廃墟を一人で歩いているような感覚に囚われた。僕は少し不安な気持ちになった。
 信号機は青になった。
 僕は横断歩道を渡り始めた。
 誰もいないのに、僕は、何故だか、両手両足を大きく振って歩き出した。その地面に引かれた白い線の道を歩き切ると同時に、信号は再び赤になった。
 僕はシャッターの全て閉まった、誰もいない商店街の通りを歩き始めた。
 風が強く吹き抜けて、シャッター達がざわめいた。
 商店街の店達は、まだ、眠りの中にいるようだ。歩いているとその店達の寝息が聞こえてくるようだ。まるで大きな動物達がそこで眠っているような印象を受ける。
 僕は動物達を起こさないようにそっと歩き続ける。
        マダオコサナイデ

 彼等は僕に、そううったえているようだ。
 少しでも彼等に触れると喰い殺されてしまいそうだ。
 シャッターが彼等の閉ざされた瞼のようだ。それらを開けると彼等の剥き出しの眼球が露になるような気がした。
 僕を取り囲む巨大な獣達。僕は商店街の店達をそうイメージしてみた。
 眠れる巨獣達のそばをこっそりと通り過ぎようとしている僕。
 商店街を通り切って、また、横断歩道に差し掛かった。
 信号はまた僕が通ろうとした時に赤になった。
 しばらく、赤の信号を見つめていたが、この先にあるのは圧倒的な虚無、そんな気がした。
 そして、僕は、これ以上進むのを止め、引き返した。



 おわり



Copyright © 2008 しん太 / 編集: 短編