第75期 #10
春が終われば、夏が来る。
暖房「4月くらいからおかしくなってさ。もう最近は完全に俺を必要としてないみたいなんだ。この間帰ってきても俺の事はシカト状態だった」
冷房「冷たくしすぎたんじゃない??」
ドライ「あの子結構ドライだからなぁ・・」
加湿「君にも過失があると思います」
暖房「お前らに言われたくねぇ・・」
リモコン「女の子はちゃんとコントロールしないとダメだぜボーイ」
フィルター「アンタ達・・もうちょっとオブラートに包んだ発言をしなさいよ。暖房、気にする事ないからね。こいつら面白がってるだけなんだから」
送風「まぁまぁ。暖房がイイ奴なのはみんな知ってんだろ??暖房もさっさと元気出せ。空気の入れ替えは必要だ」
暖房「・・・そうだな、ありがとう。くよくよしててもしょうがねぇもんな。」
加湿「私が考察するに君はインバータにもかかわらずエアパージを怠った為に彼女のコンプレッサーが限界に達し」
送風「よし!!じゃあみんなでメンテにでも行こう。せっかくの夏なんだしさ!!」
リモコン「オーケー。俺が工場のエンジェル達と仲良くなって暖房の電源を再起動してやるぜ」
フィルター「どーせおばちゃんばっかりよ。と言うかあなたがナンパしたいだけじゃない。暖房はそんな事しないもんね」
ドライ「俺はパス。どうせ加湿も行くんだろ??アイツがいたら楽しめるもんも楽しめねぇよ」
冷房「あ、僕も今日は行けないんだ。最近忙しくてさ・・。今度また飲みに行こう、暖房。そん時はドライもね」
と言う事で、行ける奴らでメンテナンスに行く事になった。
気は晴れないけど一人で何もしないでいるより100倍マシだ。
全くこいつらとはくだらない会話ばかりで飽きる事がない。
そして、飽きが来る頃には冬の訪れも近いだろう。
そうすれば俺もまた彼女に求められるかもしれない。
その時の為に用意だけはしておこうと思った。
メンテ中に、室外機からメールが来た。
みんなが出かけたはずなのに出てくる空気が異常に熱かったので、部屋の中をのぞくとそこには彼女の火照った体を包み込む冷房の姿があった。彼女はまだ俺と付き合っていると思いあわてて連絡をしてきたとの事だが、彼女が冷気の愛撫に快感を覚えている描写をご丁寧に添えたそのメールは、まだ俺が彼女と付き合っていると思っているとは思えない。俺は設定温度以上の熱を自分の中に感じ、返事をせずに携帯を閉じた。
夏はまだまだ終わりそうもない。