第75期 #24
その日の夕食後、家族会議が行われた。日曜日の夜くらい、のんびりしたいところだが、『家族会議』なのだから僕も参加しないわけにはいかない。ソファーには、オヤジ、オフクロ、姉貴、僕、愛犬のボギーが座った。強そうな名前だが、シーズーだ。
「どうするかぁ」
威厳のないオヤジが切り出した。
「やっぱり、避妊手術しておいた方がいいんじゃん」
頭の悪い姉貴が応対した。
「そうね。これじゃ、しょうがないものね」
気品のあるオフクロは姉貴に賛同する。
ボギーは3歳のメスなのだが、とにかく子沢山だ。家族が大切とか、男好きと言う感じは見受けられないが、単にエッチが好きなのかもしれない。両足を前に出し、その上に顔をのせて、舌を出している姿から反省の色は見られない。
「かわいそうなんじゃない。子供産めなくなっちゃうんでしょ」
僕の言葉に、オフクロと姉貴が顔を見合わせる。
「弘樹は中学2年生でしょ。もうそろそろ色々なことを知ってるわよね」
なぜか、オフクロは顔を赤めながらそう言った。
「色々なことって?」
「アホ。なんで子供が出来るかってことだよ」
高3の姉貴は、まるでオフクロが言いたかったことをすべて、知り尽くしているような生意気な口調で言う。
「じゃ、姉貴は避妊手術をすればいいと思ってるのかよ。子供が産めなくなっちゃうんだよ。ボギーはメスだし、特権じゃん」
声を荒げると、
「でも、次から次へと生まれた子供たちは、結局ボギーが育てられるわけもないから保健所に連れて行ったり、飼い主を探したり、お友達に聞いて回ったりで大変なのよ」
オフクロの顔は切実に見えた。
「そっか。じゃ手術するしかないんじゃないの」
ついていないテレビの方に顔を背け、半ばふてくされて言った。
「それじゃ、全員一致ということで、来週の日曜日に、避妊手術を受けに行くと言うことでいいかな」
とオヤジが出来の悪い部長さんのような口調で締めに入ると、ボギーはソファーから飛び降りて、洗面所へ向かったようだ。オシッコか、水が飲みたくなったのだろう。しばらく沈黙が続き、特にオフクロと姉貴は深刻そうな顔をしていた。
ボギーがなかなか帰ってこないので、
「健二。ちょっと見てきてよ」
顎で指図する姉貴に腹が立ったが、確かに遅い。
僕は廊下に出て、洗面所を見ると、水飲みの容器で申し訳なさそうに、お尻を洗っている、ボギーがいた。
了