第74期 #4

たまねぎ

 ピキューン。ピキューン。
 光線とその音の数だけ、人類が消える――。

 二○××年、彼らは世界中に現れた。
 突如として現れた恐怖の権化は、世の中に死と混乱を巻き起こした。
 大きい球根のような身体に、人間の手足を生やしただけの謎の生物。腕毛が生えたその手には、未知の光線銃が握られている。
 ピキューン。ピキューン。
 光線銃が人にむけられ光を放つと、人間はたまねぎになった。
 人間が減って、たまねぎが増えた。
 ピキューン。ピキューン。
 彼らの問答無用で迅速な攻撃は、一切の反撃の隙を与えない。
 すね毛の生えた足がいくつもの街を悠々と練り歩けば、たまねぎの個数はどんどんと増していった。
 理不尽で不可思議な暴力を前にして、なすすべのない無力な人々は、ただただ逃げまどうしかない。
 哀れな子羊達は、もう神に祈るしかなかった。

 ――そんな中で、勇気ある子羊が、ふと雄叫びをあげた。

「こいつら、食べれるぞー!」

 つられて誰ともなく、彼らに抱きつき始めた。
 子羊の皮を被っていた狼は、追い詰められてその本性を現し、捨て身で獲物を捕らえていく。
 それだけでは飽きたらず、餓えた狼達は増えすぎたたまねぎも食べだした。
 同胞やたまねぎが人間に食われているのを見て、彼らはとても怯んだ。
 こうして大阪から広がった、一連のたまねぎ食い倒れブーム。神に祈りが通じたのか、狼達のその狼煙は、瞬く間に世界中に広がった。

 食べる。食べる。
 ある者はカレーに、ある者はスープ或いはシチューに、ある者はグラタンに、ある者はハンバーグにして食べた。
 中には和風として肉ジャガや味噌汁、戦場でわざわざ鍋料理に入れて食すグルメもいた。
 またある者は、そのまま食らいついた。それはもう、大粒の涙を流しながら。
 食べる。食べる。
 辛い。苦い。
 それでも彼らの攻撃は続き、両者共に犠牲者は増え続けた。
 人が減り、たまねぎが増えて、そのたまねぎも合わせて、人々はまた食べ続ける。
 その異様な光景に耐えられなくなったのか、彼らはいつの間にか、いずこかへと消え去っていった。

 こうして、世界には真の平和が訪れた。
 そして、世界中の食料危機は全て解決した。



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