第73期 #16

鳥籠から見た自由

 僕が鳥籠で飼っている鳥は、よく喋る。
「よぉよぉ、人間って不自由だよな」
 それは、オウムのように人間の言葉を返すわけじゃない。
「だって、翼がないんだろ? 人は比喩を用いて、翼があるとかなんとか言っているらしいが、はっきり言えよな。翼なんかないって。だって、お前らのどこに翼が生えてるんだよな」
 自分で考えて喋る。それは、人の真似事ではない。
「人間という生き物ほど不自由な生き物はないよ。高い知能を持っているからって、人は自由だとでも勘違いしてないか? 逆だ。人は高い知能を持っているからこそ、不自由に囲われている」
 あまり大きくない、けれど彼の小さな体を納めるには十分すぎるほどの広い世界。
 鳥籠に入れられている鳥は、僕らを不自由と罵る。
「人は電車を作った。線路を作った。これは便利? おいおい、頼むぜ。便利がイコールで自由だとでも思ってるのか? お前、あれか、小学生だっけ。中学生だっけ。若い頃から童顔というのはめんどくさいな。ともかく、そんなこと分からないようじゃ、大人としてやっていけないぞ」
 鳥に説教された。
「電車を作ることで、人は時間を制約された。電車は決まった時間にしか来ないからだ。不自由一。そして、人間は車両という空間の中で、見知らぬ人々と過ごすことになる。不自由二。他人と空間と時間を共用しなければいけない。不満は通らない。電車は一人ではなく、数人で使用するものだからだ」
 鳥は僕を、いや、僕ら人類を、小さな赤い目で見つめている。
「高い知能は自由を生み出すわけじゃない。それどころか、自分で自分の首を絞めている。自殺と変わらない。青い空も灰色の煙で汚し、透明な水も黒い液体で汚したろ。おいおい、これのどこに自由がある。これは不自由三。そして、人は社会というものがある。これが最大の不自由。ちなみに番号は四。なぁ、言わなくても分かるよな。これは流石に」
 僕は、分からないよと言った。
 鳥は、おいおいおい、と言った。
「ちなみに、家族というものも不自由の一つだ。番号は五だな。聞いてみるといい、お前の父親に。あ、そうか。今はいないんだよな。悪い悪い、機会があったら聞けばいい。別に聞かなくてもいい、どうせ、いつかは知ってしまうことだ」
 脆弱な住処なはずなのに、まるでそれが壮大なる青空かのように、鳥は自由に飛び回っていた。
 僕たちは、それをただ見ていることしか出来ない。


 (了)


Copyright © 2008 蒼ノ下雷太郎 / 編集: 短編