第73期 #10
正方形のその比較的小さな体育館は、そこらの土砂に滲み込んだのとおなじ雨にぬれ、赤錆の浮いた入口や窓枠と日に焼けたカーテンだとか何でできているのか定かではない腐食の進んでいそうな屋根、そして塗装の剥げてむき出しになったコンクリートなんかにはまるで少しずつ水か滲みいっているような…そんな風に見えた。
長年出番のなかった体操用マットはかび臭かった。
今は4日目の朝だった。ここには集落のほぼすべての人間が避難して来ていて、狭くないのは、私たちが元々少ないからで、現人数は16人…半数近くが老人でその人たちはやはり大変…
横着して寝ころんだまま眼鏡をかけると滲んだように見える天井の色むらは今にも雨漏りしそうだけどそんな感じでこの4日間、結局ここの避難者を守り続けていたのだった。それは私の家だってそうで何年もたいして良くはない家庭もこんな感じに続いていったのだ、もっと長い雨もあったろうに。じゃあ何故家は今雨に流されここは大丈夫なのか。いくら風雨に耐えられても土台を崩されてはどうしようもないからか。土石流だからか。
家がもしもっと簡単に流れてしまう物だったなら、石なんか降ってくる前に雨に流れて今頃は海に浮いていたかもしれない。
他愛もない空想は特に救いではないけれど…
台風は今関東の東の海を東へ進んでおり、間もなく熱帯低気圧に変わると思われるが、北上してきた前線の影響で各地が豪雨に見舞われているのだそうで、そう言っていたテレビは今は沈黙しているものの、大抵昼はずっと電源が入っている。特にやることがない人はずっとそれを見ている(つまりみんな。)。私は図書館の鍵を借りてきて、本を持ってきて読んでいたけど、唯一の児童書と絵本以外の本だった世界動物文学全集はもうすぐ読み終わってしまう。
「ドいろがあは」
というような寝言を坂本の爺さんがいう。唐突な感じに響く。爺さんにも、と私は思う。雨がしみ込んでいる。
私は台風が来た日、一人外へ出て風を受けて…昔から台風の風で遊ぶのは大好きだったから…普通と違うふらつくような台風の風にそれから弱くなったといってもすぐ濡れてしまう雨を浴びながら思ったことはこれと正反対のことだ。
台風の中踊り遊んでいた私は、今は亡き我が家に、声と共に連れ戻された。
今はまあ、特にすることがない。明日総理大臣(とあとテレビ)が来るので雨の中だけどきっと逃げきってやろうと思う。