第72期 #5
ここで告白したいのだが、僕の趣味は放火だ。今まで四十二回放火したが捕まったことはない。ハッハッハ。巨大な炎が好きなのだ。他人の人生を燃やして、輝く炎が好きなのだ。
世間的には、悪いことなのかもしれないが、楽しくて、やめられない、止まらないのだから仕方ない。
一つ放火するごとに、僕は自己実現を果たし、アイデンティティーを確立していく。もう、随分、放火によって僕はしっかりとした人間になった。
それにしても、今まで僕がした放火で死人が出たことはあるのだろうか?僕は自分のした放火のその後を確認したことはないので、そういったことはまるで知らないのだ。
家全体を巨大な炎が包み、それをしっかりとこの目で確認する時、僕のエクスタシーは絶頂を迎える。それ以降のことなどどうでもいいのだ。
しかし、どうなのだろうか?死人など出たことはあるのだろうか?
まあ、ありきたりかもしれないが、僕はその家の表にだされてあるゴミにガソリンを播き、ジッポーライターで火を点ける。
炎が広がり出したのを確認すると、僕は一旦、その場を離れる。
しばらくすると、消防車の悲痛なサイレンが聞こえてくる。
その頃には、炎はとてつもなく巨大になっており、そこに住む奴等の人生ごと、全てを焼き尽くす。
まるで、僕がその家のゴミ置き場に小さな悪魔を放し、僕が播いたガソリンをエサとし、巨大化し、その家とそこに住む奴等を食い尽くしているような感じだ。
そう、今では、この炎とは、僕と共に生きる、僕の飼っている、悪魔である。
いつでも召喚可能な僕のしもべである。
ガソリンを播く、そして、峰不二子の絵が刻まれたジッポーライターで火を点ける、この儀式によって彼はいつでも僕の前に姿を現す。
アラジンがランプから魔人を呼び出すように、僕も彼を呼び出す。
一度、彼を召喚してしまえば、召喚した僕でさえ、彼を止められない。
ああ、僕は君を愛している。
そこまで傍若無人に、躊躇する様子など全く見せずに、人間を蹂躙していくという、僕にはとても出来ないことを、君はいとも簡単にやってのける。
ああ、君が愛しい。
人間は美味しいのかい?
人間の味は?
君が飲み込んだ人間の人生の味は?
君は僕の召喚獣。
おわり