第71期 #4

夜道

 「遅い…なんてね。」
彼女は待ち合わせに遅れた僕に冗談を言った。新宿20:45のこと。
 「まさか、来るとは思わなかったよ。」
「会いに行くって言ったじゃん。」
日暮里到着。彼女と並んで道を歩く。
「ここでいいから。バイバイ」
「家まで行くよ。」
「今日はヤダ。そんなんじゃ家にあげられないからダメ。」
「じゃあ、家の前まで。」
「…分かったよ。」
夜道をゆっくり進んで行く。分かっていた。彼女の顔が曇っている。嫌なんだね…僕といることが。
「ここだよ、家。」
「そうなんだぁ。」
「送ってくれてありがとう。」
「いやいや、別にいいよ。」
帰ろうとする彼女を引き止め、抱き寄せた。愛しい彼女の髪が夜風で香る。
「もう、帰らなきゃダメだから…。」
「…うん、分かった。バイバイ」
「気をつけて帰ってね。」
「ありがとう」
ここまで嫌がっておきながら彼女はいつも優しい。卑怯だ。嫌いになれないじゃないか。
 夜道を一人歩くと、後ろから呼び止められた。
「バイバイ」
「じゃあね」
なんでそうやってココロを揺らすコトバをかけるの。今日で最後にしようと決心したのに。
僕がいることで、彼女を傷つけている。好きだからこそ、離れなければならないんだ。
 大切な人を自分の力で守れないと知った。日暮里21:45のこと。



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