第71期 #3

京都

仕事から逃げるように突然明日も休みを1日もらって京都にきた。同僚たちはきっと勘ぐるにちがいない。なかなか仕事のことが頭から離れず、やっととれた宿の部屋の窓をあけ外の空気を吸いながらぼーっとしていた。
でも、ココに来たのは一人じゃない。一緒に来てくれた人がいる。一緒に来てくれた理由は聞くまでもなかった。お互いのことを思えば、推し量れば聞いてはいけなかった。聞いてしまったら心のどこかで堰き止めているものがあふれてしまいそうだった。
自分の気持ちに気付いてしまいたくなくて、それを抑えるのが苦しかったのと、仕事がうまくいかず苦しかったのとでどうにもいかなくなっていたのだ。消え入りそうな声で「明日休ませてください」と電話をしたとき、そのあまりの悲惨さに気付いたのか「わかった、京都に行こう」と言ってくれた。京都にはずっと前から連れてきてくれる約束をしていてくれたが、結局こちらから誘ったようになってしまった。
外は祇園祭も24日の還幸祭が終わり、ようやく終盤を迎え始めた。
「観光客向けじゃなくて、いいところがたくさんあるから」
そういって微笑んでくれた。私は心のわだかまりがすっと解けていくのを感じた。
今だけでいい、一瞬の逃避行に陶酔しようと心に決めその瞳に頷いた。



Copyright © 2008 みさめ / 編集: 短編