第71期 #2
24 男は、両の瞼をゆっくりと開ける。
33 凝縮していく地平。
15 陽に乾いてささくれ立った畳。
17 「起きた?」
18 水仕事をしながら、女はいつも障子越しに男へ声を掛けた。
26 磨り硝子の障子に仕切られた水屋。
28 其処に、女の姿はもう無い。
25 醜い染みが広がって行く様に、じわりと上体を起こす。
30 窓の桟に両肘を突いて、窓外を見遣る。
13 そして、鮮やかな風景が拡がって行く。
01 燃える夕暮れの街。
36 もうすぐ、闇が落ちてくる。
03 杖を突いた老人が、歩みを止め息を吐く。
31 全身の力を抜き去る様に、ゆっくりと両の瞼を落とす。
27 そして暫し間を置いて、弾かれた様に開ける。
35 それからゆったりとした足取りで、橙に呑み込まれていく。
05 バスケットボールをつきながら、子供らが無邪気に笑い合う。
08 薄汚れた野良犬が、身体を引き摺る様に通りを彷徨う。
02 濃紫の尾を伸ばす電信柱。
11 野良犬は、鼻面を押し付けて、その臭いを嗅ぐ。
22 それも、ながくは続かない。
34 野良犬は何か醒めた様に、不意に頭を上げる。
04 その脇を、母子と思しき二人が、手をつないで過ぎて行く。
19 女が身を捩って顔を覗き込む。
21 互いに見つめ合い、内から自然溢れる微笑みを湛えている。
07 遠くから、豆腐屋のラッパが聞こえて来る。
14 物の殆ど無いアパートの一室。
09 男物の、黒い革手袋。
06 宙に放り投げ、弄ぶ。
29 男は、拭い去れない懐かしさに、少し身を委ねる。
12 やがてその脳裡に、人影が揺らぐ。
32
20 「起きたよ」
16 静かに横たわるひとりの男。
10 打ち捨てられたのか、或いは唯其処に在るだけなのか。
23 存在するものは、いつだって気紛れだ。