第71期 #1

葬式にて

 先日、遠い親戚の葬式へ行った。喪服を着て、坊主のお経を聴いていた。皆、神妙な顔をして、拳を握り、正座して、座っている。
 僕もそうしていた。
 坊主の単調なお経が続く。
 でも、やっぱり、やってはいけない、してはいけない、って禁止されると人間って、どうしても、逆のことを考えてしまうね。
 どういうことかって言うと、皆の中で正座していると、何だか、可笑しくて、可笑しくて、仕方なくなってきたんだ。
 あのくそ坊主のつるっぱげの後頭部が可笑しくて仕方ないんだ。
 その坊主が単調に木魚を叩き続けているのが可笑しくて仕方ないんだ。
 まわりの人達の神妙な顔が可笑しくて、可笑しくて、仕方ないんだ。
 何だか故人の遺影の顔まで可笑しくて、可笑しくて、仕方ないんだ。
 そのすべてがミックスされた空気が可笑しくて、可笑しくて、仕方ないんだ。
 僕は、ふと、縁側の外を眺めたよ。
 のどかでポカポカとよく晴れた日だったよ。
 僕はうつむいて、震えていたよ。
 七分くらいは、そうしていただろうか?
 でも、もう限界が来ていたんだ。
 僕の口から、吐き出される息と共に、笑い声が漏れ出したんだ。
 皆、少しずつ、僕の様子がおかしいことに気付きだしてね。
 何人かが僕の顔を覗き込み出したんだ。
 もう限界だったよ。
 僕は今までこらえていたものが流れ出すように、笑い出したよ。
 もう、笑いが止まらなかったよ。
 大声で笑い続けたよ。
 皆、驚いて、僕を見つめていたよ。
 でもね、坊主だけは、あの、くそ坊主だけは、相も変わらずに、お経を淡々と続けていたんだ。
 僕は、立ち上がって、坊主のもとへと歩み寄ったよ。
 そして、坊主の隣に座ると、坊主の肩に右手をまわしたよ。
 坊主の顔を覗き込んだよ。
 坊主はそれでも、お経を表情一つ変えずに続けているんだ。
 僕は坊主のツルツルの頭を撫でてやったよ。
 微動だにしなかったね。
 そして、見事、お経を最後まで唱えきってみせたよ。
 根性があるよね。
 それだけさ。
 それだけのちょっとした話。




 おわり



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