第71期 #14

作品

 映画を観てきた。今人気の映画で館内はうまっていたが、一人冷めた目で眺めていた。
 映画の中では人々の命が簡単に奪われていく姿が映し出されていた。以前に流行った歌の歌詞が頭に浮かんだ。死を演じる技術は発展を続けているが、それで何を訴えるのか。
 その前に観た映画は小さな子供達が主人公だった。もう子供でしか理想郷を描くことはできないと、その作者は云いたげだった。
 夏休み中、映画館に通うがなかなか面白い作品に巡り合うことができない。先日、それを友人ののぼるに相談してみた。彼は、
「松尾芭蕉の句が、全て秀逸という訳じゃないんだ。数多い作品の中の幾つかが優れている、ということなんだ」と云った。その通りだと思った。本物に巡り合えるのはいつの日か。
 春先、大学を休学して東アジアを旅してきた。朝鮮半島から中国内陸まで行き、ミャンマー、タイ、ベトナム、台湾と回ってきた。世界の真実を求めた旅だった。
 でも、このアジアのメディアには失望した。日本だけはと浅はかな期待と共に帰ってきたが、どこのテレビも新聞も皆同じだった。自国を美化し他国を忌嫌い、隣国を罵って自国を保とうとする。自国では自分達の食料さえも満足に得ることができないというのに。その一方で西洋列強が笑っている。モノマネ猿達が、ボス猿の地位を巡って騒いでいるぞと。外から見たら日本の景観も、隣国と変わりない。
 これから、この世界の中で僕らはどこを目指し、何を表現するか。わからない。全てが虚無で覆われた映画の世界のようだ。
 僕は空を見上げた。空だけが一人、今までの人間史を具に観てきたのかと呟いた。


 ……青年が見上げる遠い空の向こう、次元の異なった空間に部屋があった。その部屋の壁は無数のテレビモニターで埋め尽くされており、モニターの一つ一つに下界の人間達の様子が映し出されていた。
 部屋の中央、肘掛椅子に腰掛けた白い服の男が、傍らに従える男に声を掛けた。
「この地域にはもう、興致な作品はないのかね」
「どれも陽の当て方次第でしょうか」
「また1世紀前のよう、圧迫ある空気で覆い、再び彼らに自発的な流れを促さなくてはならないのか。しかし、もう戦争モノには飽きてしまった」
 白い服の男が嘆息をもらすと、モニターの前で画面を操作している男が威勢よく口を開いた。
「神様、なかなか玉質の作品が芽を出しそうです。主役となる彼の双眸から、盲点を刮いだ甲斐がありましたよ」



Copyright © 2008 bear's Son / 編集: 短編