第71期 #15

八月の光

 写真が雨のように降っている。
 無数のカメラマン達。フラッシュ。
 銀色の飛行機。
 飛行機雲。

「開拓者精神とかなんとか言うがあたしらにはこの年になってもそれが意味するのは虐殺者、簒奪者、征服者でしかないんだよ。ずっとこの身から離れない。ずっと。あんたら日本人はそんな事無いのかい?」
「あるといえばあるし無いといえば無い」
 ロボット達が対空ミサイルを打ち上げている。
 昔の絵画を正確に精緻に再現しながら。昔の言語を文化を正確に精緻に再現しながら。
「良い子達だ」
 女は呟く。


「なら妖精王に会いに行くといい」
 アインシュテュルツェンデ・ノイバウテン。
 廃墟を超えブカレストに残された唯一の共産アパートの一室へ。
 本がビルのように山積みになっている。
「今まで若者に読まれた全てのマルクスよ」
「そう」
「ええ」
「意外と少ない」
「そう?」
 一冊手に取りページをめくる。
「こんな事書いてあったかな」
「さあ」

「レキシを変えるには三人の命が必要だそうです」
「多いね」
「ええ」
「少ないのか」
「とにかく三人です。それ以上多くても少なくても何も変わらない」


「エノラゲイに乗ったお前の父さんは凄く美しかったのよ」
 病床で母はあたしの手を取りそう呟いた。
 弟は「羊」を相手にトランプをしていた。六十連勝していて「羊」は六十連敗していて、どちらもうんざりしていた。
「また暴力と性と生と死か。最近こんな主題のものばかりだな」
「ああ」
「くだらねえな」
「ああ」

 海岸線。二人組はデートを続けている。
「音楽何が好き?」
「あたしあまり音楽は」
「そう」
「うん」
「何か食べに行こうか」
「あたしあまり食事は」
「そう」
「うん」
 博物資料館。
 フラッシュ。
 ぎこちないSEX、の絵画。
「帰る?」
「うん」
「帰らない?」
「うん」


 フラッシュ。そして閃光。皆が振り返る。
 スタートライン。誰もいなくて。
 ゴール。何もなくて。
「皆が待っているね」
 嘘が本当に嘘臭く響いて。
 抱きしめていた。
「何を?」
 カケラ。破片。
「何の?」

 ベッド、飛び続ける、飛行機。雲。母。ママ。ママ。

 フラッシュ。そして閃光。
 八月の光。
 様々な衣装。様々な嘘。様々な映画。
 エンドロール。神にひざまづく。神に会いに行く。オープニングテーマ、燃え尽きて、子午線。弔い。写真が雨のように。飛行機、雲。カメラマン達。フラッシュ。歩き続けている。どこへ。カケラ。何の。
 写真が雨に濡れている。



Copyright © 2008 るるるぶ☆どっぐちゃん / 編集: 短編