第71期 #11

あなたの性格がわるいのは母親のそだてかたが原因だったのだ

 ゆうべあんなに悩んで翌日に教室でしかられると想像してあんなに不安にかんじていた宿題が今朝になったらきゅうに魔法のようにとけてしまって究極の解法をみつけたよろこびにはじけるようだった。ようだったが朝は学校のしたくでいそがしくてけっきょく宿題のこたえはつくれない。
 そういう記憶があったかもしれない。わたしは十二も年下の男と暮らしていた。正確にはアパートの隣人のわかい男と男女の関係になってだいたい週に数度はどちらかの部屋で寝た。週に数度? 回数も分からないのに関係性をあらわすなんて不遜だ。
 このひとり暮らしどうしの中年女と十代男のただれめくスキームを親戚のなかで祖母の葬式のときにただひとりうちあけたおじさんからはわらわれた。
「ばかやろうだなあ」
 ただのわらいかたじゃなかった。わたしへの無理解を無意識のしげみにかくすためのくるったような高いこえのわらいだった。
 わたしはわたしの知識と経験を担保にして彼とつきあった。彼のほうからはわたしはさみしさの紛らわしを貰っていた。万全でしょうが。なのにわらわれた。
 わたしはおじさんのこころの中でしんでしまえとおもわれたかもしれない。あのわらいにはそんな気配がふくまれていたようにかんじる。しね。ころされろ。人はじぶんの手をよごさないならだれもが何度もそうおもったことがあるのにちがいない。人びとはみなわたしを同類として偽善者だ。いまわたしのかんがえ飛躍したのかな。かまわない。ひとりの人間のあたまの中などたかが知れている。
 母が「あなたの性格がわるいのは母親のわたしのそだてかたがわるかったのだ」そしてそうなったのは「わたしをそだてたあなたのお婆ちゃんのそだてかたがそもそもわるかったのだ」と。
 傲慢だろう。遺伝子に性格の原因を委託するのは。
 あるときに彼にののしられた。
「ばばあ」
 わたしは一連の様子をひらめきちらかせあたまの中で像ちづくる。以下のようなかんじで。咄嗟に食卓の仔猫のエチケットのワインボトルで彼の頭頂を一撃。彼は昏倒。彼の胸板をキッチンナイフでたくさんに何回もさしつらぬく。
 わたしがこまるのは感情がにわかにわきだつことだ。そのわきだちのおかげで彼といると先のような殺害の幻像をみる。幻像のおかげで殺意が現実の行為におとしこまれないのだろうが実際におこしてしまったように錯覚され罪悪感にさいなまれてやりきれぬようにかんじられつらいのだ。



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