第70期 #8

微過失

ついうっかり、と過失を起こしてしまう事がとても私には多い。もう一枚洗い場の皿を取れると思って手を伸ばしたらもう片方の手に持ってた皿を割ってしまったり、パソコンで作成していた書類を立ち上がった際にキーに手を当ててしまい誤ってソフトを終了させてしまいしかも保存してなかったので打ち込んだ文を一瞬で消失してしまったり、という事が私はとても多い。昔からだ。全く学習しない。今までで幾つの損害を私は周りに与えてきたのだろうか?悲しくて頭を抱えてしまう。「生まれてきてごめんなさい。」と、ミスを起こすたび心の中で思うのが癖になってしまうほどに。
しかし今までのミスは損害をそれなりに出したが自分が弁償・補償・謝罪すればなんとかなる類の物ばかりだった。皿はまた買えばいいのだ、書類はまた打ち直せばいい。うっかりによる過失はなんだかんだと言ってたかが知れている。自分が責任を持って後始末すればいいのだ。(そういう考え方だからきっと学習しないのだ。私は。)人生は結局なんとかなる。死にたくはなるけど。と、嗚呼今までそう思ってきたのに。このミスは流石に、どうしようもなくて。…過去私と同じような過ちを起こした人はいるのだろうか?居たら話を聞きたい。どうやってこのミスを対処したのか。と聞きたい。とても聞きたい。その人はどれほど謝ったのだろう?どれだけ後悔したのだろう?あまりに苦しいミスだからもしかしたら他人の所為にしたのかもしれない。

パソコンのモニターを見ながら片手で机の引き出しを開けた。引き出しの前にはたまたま妊娠中の上司が立っていた。そんなに強い力で開けた訳ではないが、一番下の大きな引き出しだったためか、それは上司の大きなお腹に当たり彼女は蹣いて、傾いて、仰向けになって、悲鳴、周りが駆け付けた、そして今床は血まみれだ。

嗚呼!どうしよう私が非難される。前方を見てない私が悪いと。私は引き出しを開けただけなのに!ああ、許してくれるだろうか。上司が「いいのいいのまた作るから気にしないでね」と言ってくれるだろうか。そしていつもみたいにみんな私を許してくれるだろうか。もし自分が補償するとなれば私が子供を産んで上司にあげればよいのだろうか。上司はしきりにお腹を押さえて呻いている。この血で汚れたカーペットもひょっとして私が弁償しないといけないのだろうか。遠くからサイレンが聞こえてきた。生まれてきてごめんなさい。許して


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