第70期 #15

画一世界

今度、西暦が廃止されるらしい。
何でも、コンピュータの高速化の為に、非合理的な西暦を止める事になったそうだ。

これも時代の流れというやつなのだろう。
反対する者達の小さな集会が各地で行われているようだが、マスコミは、業務効率化になる為か、揃って支持している。
マスコミが右を向けば右を向く国民、もうテレビにコメンテーターは必要ない。

政府もそうだ。
総理はマスコミの支持があるから総理でいられる。
マスコミに人気のある人を閣僚に選ぶ。
能力は必要ない。何をやるかはマスコミが決めるし、実際の仕事は官僚達だ。
飽きられれば首を切られ、別の話題になっている人が次の閣僚となる。
大昔にそんなお笑い芸人が沢山出た時代もあったらしいが、何に於いても効率化を求める現代では、政治の世界までもそうなってしまったのだ。
確かに、マスコミの支持に合わせておけば、今大衆の意識を作っているのはマスコミだから、反対も少なくスムーズに社会は進んでいく。

マスコミはお互いに協定を結んで、何処も同じ報道をしているから、どのチャンネルでニュースを見るかなんかは、キャスターが美人かイケメンかという程度の話だ。
そのせいか、テレビで芸能ニュースを最近見なくなった。


私は、ここ何十年も、今の社会を批判する本を書いてきた。
インターネットによって人々が自由に情報を受発信していたという、昔を再評価すべきであるとずっと訴えてきた。
確かに、良い情報も悪い情報もあったのだろうが、ある問題に複数の意見があり、皆がそれらを見、自分の意見を持つ事が当たり前であったのだ。
十人十色という古語がいうよう、本来的に人々は意識を共有しているわけではないのだ。

今、少なくとも私は、この点について、私個人の意見を持っている。実は他の多くの人々も、そうなのかも知れない。
友人らに電報を打ってみたが、返事はない。

この文章は、他の全ての私の文章と同じく、現代人に読まれる事はないだろう。
しかしそれでも、私は書き続ける。
いつか、私の考えが、大衆の画一的な意見となる事を願って・・・。



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