第7期 #19
真上から射す太陽。少女は積み上げられた土の山の頂きの一つに腰掛けて、忙しく動き回る男の背中を頬杖つきに見ていた。
「やあ、お嬢ちゃん。今日も来たのかい」
男は人のよさそうな微笑みを浮かべ、頭上の少女を仰いだ。
「ええ」
風に靡く黒髪をさかんに押さえ付けながら、少女は微笑みを返した。また少し土の山が高くなった。男は胸の高さまで掘り下げられた地面からひたすら横に向かって掘り進んでいた。
「おじさん」
「ん、なんだい、お嬢ちゃん?」
男は土の壁を掘る手を一旦休めて、一頻り額の汗を拭うと遥か頭上の少女に目をやった。
「おじさんはどうして土を掘っているの?」
「さあね。強いて言えば、見てみたいんだよ。この土の壁がどこまで続いているかをね。だが掘っても掘っても無くならならなくてね、こいつがさ」
男はぽんぽんと土の壁を叩いて、やれ困ったと苦笑いを浮かべはしたがその表情はどこか嬉しそうだった。
「ふうん」
気のない返事を返して、少女は視線を遠く泳がせた。赤茶色の地平、赤茶色の大地。掘り返された地面が巨大なクレーターのような円を描き、太陽の光に大きな影を落としていた。真上にあった太陽が、いつの間にか少し傾いている。少女は両足をぶらぶらと揺らしながら、なかなか溶け切らない飴玉をいつまでも舌の上で転がして遊んだ。
「おじさん」
思い出したように少女が口を開いた。
「わたしも掘っていい?」
「ああ、かまわないさ。好きにおやり」
少女はスカートの裾の土を丁寧に手で払い、山をそろそろと下ると、側に立てかけてあったシャベルを手に取った。一メートル程の段差をぴょこんと飛び降りて男の脇に並ぶ。
「おじさん」
「ん、なんだい、お嬢ちゃん?」
「わたしと競争しない?」
「ああ、かまわないさ」
男は答え、二人は一斉に土の壁を崩し始めた。
「Σ▲♂∋$!!」
ブリッジは騒然となっていた。薄暗い室内の暗がりに、あちこちから呻きにも似た声が響く。
「*〆★⇔∴??」
ブリッジに入ってきたばかりの艦の司令官らしき者が逸早く室内の異常に気付き、近くにいた若いオペレーターに事情を尋ねた。
「≠※‖●%……」
オペレーターはしどろもどろにゼスチャーを繰り返した後、最後にはくいと視線を一点に注いだ。その視線の先に、無数の星々を宿した巨大ホログラフィー。そこに大写しにされた青い惑星の球面に、雲の隙間から、二本の赤茶色のラインがどこまでも並んで伸びていた。