第7期 #18
ふざけやがって。
俺は叫んだ。
空に黒雲は禍々しく渦巻き、そしてその中心に、もっと禍々しく、ふざけやがっているものが見える。
出来が悪い癖に圧倒的に巨大な皿を二つ重ねたような飛行物体。
UFOだ。
UFOは怪光線を連発し、地上を焦土へと変えていく。
畜生め。
「明日は俺のタイトルマッチだぞ!」
怪光線を弾き返し、叫ぶ。
「金を積んで、待って、それでやっと、って時に! ふざけやがって、ぶっ殺してやる!」
(地球人、威勢が良いね)
頭に声が響いた。
身体を包む異質な空気。
俺はいつの間にか、UFOの中にいた。
(では始めるよ)
ゴングの音と共に第一ラウンドが始まった。
相手は典型的なデザインのエイリアンだった。俺は力一杯ぶん殴る。
(なんと)
相手は倒れ、立ち上がらない。
「次だ」
ゴングが鳴る。現れるエイリアン。殴る。迸る体液。ゴング。またエイリアン。殴る。殴る。
ふざけやがって。やれば負けはしないんだ。やっと明日タイトルマッチなのに。俺を馬鹿にした奴らを、俺を受け入れなかった世界を全て見返してやる筈だったのに。畜生、ぶっ殺してやる。畜生。畜生。
(強いな)
最後のエイリアンは倒れ、呟いた。
(本当に強い)
「そうかい」
(だが、これで良かったのかい?)
爆発していくUFO。地上へと戻される俺。
(これで本当に良かったのかい?)
そして。
ゴングが鳴った。長かったな。倒れながら俺はそう思った。
「くだらねえ試合だったぜ!」
「クズめ!」
罵声に包まれ、俺はリングを降りる。
空き缶が飛んできた。だがそれを払うことも出来無い。なにしろ腕がぴくりとも上がらないのだ。
昨日のあの連戦のせいだ。
突然消えたUFOを人々は無かったことにした。試合は普通に始まった。俺は試合の間、打たれ続けた。チャンピオンはげらげら笑いながら俺を殴った。
(あいつらはこんなものでは無かった)
俺は殴られながらそう思った。
「あなた、頑張ったわ」
妻が側にいた。
「良くやったわよ」
「少し黙っていてくれないか」
「また一から、ね」
「黙っててくれ」
俺は叫んだ。
自分の声がうるさかった。耳を塞ごうとした。手は今になってやっと動いた。
手は半端にずれ、妻の頬に当たり、そしてだらりと垂れ下がった。
「あなた」
妻は涙に濡れ、血走った瞳で俺を見た。
「悪かった」
(それで良かったのかい?)
あの言葉が頭の何処かで響き、俺はそれを随分懐かしく感じた。