第7期 #17

ささやかな贋・預言の書

 『メネ』とは、神があなたの王国を数えてこれを渡し、『テケル』とは、あなたが天秤にかけられたところ、不足と判明し、『ペレス』とは、あなたの王国は分割されて、メディアとペルシアに渡された、ということです。(ダニエル書5:25)

 一つの帝国があった。その民は海の砂のようにおびただしく、彼らのたくわえた富は山のようにうず高く、その勢いは、これまで歴史上に現れたどの国よりも壮んであった。
 地上にはもう彼らに敵する民はなかったので、彼らはやがて翼を持つ船をつくり、天の大いなる神の御座に向けて打ち上げることを始めた。
 その船の一つが、航海を終えて戻る途上、虚空の中で溶けて燃え尽きた。長い尾を引いて落ちて行く火の玉を見て、人々は皆、胸を打って嘆き悲しんだ。
 その日、王は民の前に、声を上げて言った、「我々は恐れず、勇者たちの切り開いた道を、なお共に進もうではないか。」
 王が宮殿に戻り、今度は、自らに背いた国に攻め入る策略について考えをめぐらしていると、白い衣を着た人が執務室に忽然と姿を顕した。王は怪しみ、問いかけて言った、「あなたは誰か。」
 白い衣の人は答えた、「私は聖なる方より遣わされた御使である。あの船が失われたことを、あなたは誰のしわざと思うか。」
「あれは誰も予想できず、誰にも責任のない、不慮の事故であると思います。」
「いや、そうではない。あの災いは、この国のやり方を快く思わない者たちの呪いによるものである。」
「それは違います。」王は言った。確かに去る年、空行く船を打ち当てて我々の神殿を打ち壊した者がいましたが、今度はそのような手段はありませんでした。
「それは世の知恵にすぎない。あの船を造りみがいた千万もの技術者の中に、秘かに、呪いをかけてその働きを害した者がいたのだ。」
「もしそうであれば、」王は憤りを発して、言った、「裏切り者は必ずや見つけ出され、正義の裁きが加えられるでしょう。」
「王はなお悟らないのか。人の子の知恵で見出すのは不可能な所まで、この国への悪意ははびこっている。聴きなさい、この国の正義の下に虐げられた世界中の幼子たちの声は、すでに天にまで届いた。地上のあらゆる国の上にその力を振るい、栄華に驕っているこの国が、見よ、あの船のように裂かれ、焼かれ、形を失って消え去る日は戸口まで迫っている。」

 その晩、カルデア王ベルシャツァルは殺害された。(ダニエル書5:30)



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