第69期 #16
宗教画みたいな柄の蝶々が飛んでいる。
パレード。
虹。
行き止まりの壁に貼られた虹の設計図。
(行き止まりに描かれた最後の晩餐)
今日はパレード。今日は聖人の命日だから。音楽。ロボット達の自動対空砲が、虹の向こう側へ。虹の向こう側へ虹の虹の虹の向こう側向こう側へ。
「音楽がやかましいな」
「……」
「何か言えよ」
「……」
シスター達が笑っている。美しくて傲慢で愚かで賢くて愚かで賢くあるのがシスターになる条件だった。ロボット達の対空砲火。爆発音。燃え上がる。虹。虹、の向こう側。飛行機と蝶々が、燃え上がる。オーバーザレインボー。
「静かな音楽なんて音楽じゃないなんて言いたいのか? ディストーションギターがポップミュージックにもたらした影響だとかを言いたいのか? テクノの、ヒップホップの、馬鹿みたいな音圧のバスドラムがどのように世界を揺るがしたかとかの話か? それらにサンプリングされて使われるアラブ、インドの宗教旋律のことか?」
「蝶々を捕まえたよ」
「なんだと」
「ほら」
虹の設計図。行き止まりの二人。宗教画。ロボット達。行き止まりの、最後の晩餐。シスター達はワインを飲んでいた。パンはあまり食べない。ワインばかりを飲み続けている。美しい人々。美しくて傲慢で愚かで賢くて優しくて何も信じられなくて好きだったものをすぐに嫌いになってしまって絵がうまくてでもそれよりうまい絵はいくらでもあって世界を何週もしてでもどこにも辿り着けなくて何も見えなくて何も聴こえなくて蛇に抱きしめられて蛇は暗闇を抱きしめていて百人のあなたでもこれも違ってあれも違って千人のあなた地平線これも違うあれも違う全部違う、そのような条件のシスター達。
「これが兄さんだよ。綺麗で賢い、お前の兄さんだよ。いい飛行気乗りで、だから今も、永遠に空を飛び続けている」
母が子にそう言って見せたのは、明らかにゴッホのひまわりだった。
干からびた湖。パレードが通り過ぎる。羽。花々が当たり一面に散らばっていて。歴史書。宗教画。あたり一面に、見渡す限りに散らばっていて。
三十年経ったある日、オークションにてゴッホのひまわりを落札する。
虹。虹の設計図、の向こう側。超高精細スキャナにてひまわりをスキャンする。何枚も。何枚も何枚も何枚も何枚も何枚も。宗教画を描く。
朽ち果てたロボット達。朽ち果てた何十本もの虹。
オーバーザレインボー。
宗教画を描く。