第68期 #19
子どもの頃に戻りたいとか、ネバーランドは永遠の憧れだとか嬉しそうに話す人たちをテレビは映していた。
二十歳までに、まだだいぶある僕は疑問に思う。
僕は……昔、階段から落ちた。正確には飛ぼうとした。飛べるものだと思っていたんだ。
それが原因で、僕は居てもいなくても同じだった親の所から施設に入った。
僕は憧れない。怖いよ。子どもだけの世界なんて。
「ねえ、子どもに戻りたいと思うときある?」
施設の先生にそう訊いた。
「ん? 何だ、突然」
「理由を言う前に、質問の答えを」
「答えを・・・・・・っておまえなァ・・・・・・。そりゃああるぞ。子どもに戻りたいなァって」
「ネバーランド行きたい?」
「行きたいって・・・・・・連れて行ってくれるのかい?」
そうじゃなくて、と考えてることを言ってみた。
「達巳、そうだな、そのとおりかもしれない。が・・・・・・」
困ったような顔で先生は頭をかいた。
「にわとりが先か、卵が先かって議論になるかなァ。
子ども同士でも年上が年下をしつける。ここでもそうだろう? 達巳が想像している程危険じゃないはずだ」
「ふうん」
「達巳」
先生が真剣な声で呼ぶ。
「達巳、お前の年頃というのは一般的に善悪に厳しくなり、大人びてくるんだ。反抗期にもなる。でもお前は、それすっとばして大人っぽくなっちまった。だから……周りを気にするな。子どもに戻れ。疑問は今みたいにすぐ訊くんだ。今子どもでいないと――いや、まだ、ネバーランドみつけられるかもしれないぞ」
「ネバーランドは創作だよね?」
「まぁな。でも、だからこそ、子どもの思い出いっぱい作っとけ。楽しいことなるべく覚えとけ。そうすると大人になった時、あの時は良かったなと思う時が来る。それが達巳に必要なことかもしれないな」
「そう、かな」
「ああ。そうさ。でも、だからって、空を飛ぼうとかは勘弁してくれよ」
先生は言う。他の先生はそれをタブー視して言わないけれど、この先生は言う。そこが好きだ。
「わかってる。それは自分の身で学習した。飛びたくなったら、バンジ―ジャンプにしとく」
「ほどほどにな」
頭を力強い手でぐしゃぐしゃとされ、その手をのけながら、また浮かんだ疑問を一つ先生に訊く。
「先生、ニワトリが先か卵が先かって何?」
あんぐりと口を開けた先生を見て、僕はやっぱりまだ子どもかなと感じた。