第68期 #11
街外れにある小高い丘、宅地分譲の住宅予定地に白いコンクリートが立ち並ぶ。丘の上、雑草が生い茂る中を、木の枝を持った子供達が走り回る。
年長の子供が一番長く、形の良い枝を手に持つ。勝利するのは彼だけで、彼だけが勇者の役をする。勇者の仲間は要さず、勝利する資格を持つのは彼以外におらず、他の子供達は彼の敵になる。
敵役も年齢によって役割が決まる。全ては必然と決まっていて、年長と同い年の子供が最後に勇者と対人し、一番長い決闘の下、倒される。一つ年下の子供達はその前に立って陣取る。他の年下の子供達に地位はなく、決まった持ち場だけを得、勇者が進み来る道に並ぶ、コンクリートの壁に一人ずつ待機する。
この常に同じ結末になる遊びは、春の陽気が満ち満ちていた昼過ぎから繰り返されてきた。年下の反論を持たない子供達は、勇者が現れるたびに斬られ、身体を盛んな雑草の中に沈めてきた。斬られた子供達は誠実に、指一本と動かさなかった。
陽が傾いてきた。
風の冷たさに陽気が追いやられ、子供達の服に染み入った雑草の匂いも冷えてきた。小糠雨が降り始めた。一味の雨。続演のさなか、綻びが影を潜める。一人の地位のない子供の脳裏に思い出される母親の声――「身体ヲ冷ヤシテハイケマセンヨ」。土の冷たさを拒む気持ちが不意に襲った。
今まで繰り返されてきたように、勇者がまた新しい冒険を歩み始めた。困惑が膨らむ。今まで繰り返されてきたものとは違い、勇者を連れてくる時間が、どう仕様もない恐怖となって身体を包み込む。今までと違う、始めての遭遇だった。
小雨が掛かるコンクリートの壁から勇者が現れた。この状況、眼前する困惑を振り切ろうとするように、今まで斬られてきた中で必要としなかった身体のすべてを繰り出した。一羽の兎のよう。凛呼として立ち向かう。幼い子供の太刀筋は、勇者のまさにそれを超え、一太刀、勇者の身体に打ち込んだ。勇者は声を上げて仰け反った。
しかし、勇者が倒れることはない。全ては勇者のきらびやかな逆境となった。斬られても片足を引きて足の裏で土を掴み、勇者はさらに勇者となって、貫禄の一太刀で幼い子供の身体を突き破った。
これまでと同じように、幼い子供はうつ伏せに雑草の中へ倒れ込んだ。風が草木を撫でていった。服を通して冷えた土と雑草の汁液が身体に染み込んだ。
丘と子供を一緒にして夕日が覆う。緑の丘に空知らぬ雨が染み込んだ。