第67期 #9

透明生活

午前3時42分コンビニ前にて。 i podで「透明少女」を聴いていた。 小刻みに足でリズムを刻んでいたら怪訝そうな顔でこちらを伺いながら中年女性が入って行く... カーキの帽子にボロボロの赤のパーカー、スラックス着てスニーカー履いてる輩が深夜にコンビニ前にいたらヤンキーよか不審だろうな。 でも自分じゃ透明になった気でいた。 音楽を聴いている間は。 まさに某有名ゲームのヒゲ生やしたオッサンのトランス状態と同じ。 曲が終わたとき俺は電源を切り、途端に駐車場停めてあったバンの中から小休止を終えた清掃員がタイミング良く出て来た。 俺も店内に入る。 「いらっしゃいませ」どうやら既に透明ではないらしい。 仕方なしに無意味に店内を徘徊しローカルのファッション雑誌に手を掛けて気取った若者のファッションスナップを覗いたあとお勧めショップ一覧のページを覗くと「我々の今回のコンセプトは80sのドイツをイメージしたなんたらかんたら......」 この浮遊感あるイメージだけで構築されたディスプレイを見て曖昧さに憤りを感じていると「サッ!」と先程の清掃員が立ち読み禁止のプレートをかけて来た... う〜んなんとも先程から俺の意志をタイミングよく阻害する。 雑誌だけが浮いて見えたら近寄らなかったろうに... 透明なのは妄想だけ?こういう奴こそ世間じゃ無色なんだろう。 「ハァ〜」 溜め息だけは大きく響く。 4時05分。 うっすらと残った夜に色が差す前に俺は闇の中に消えて行く。



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