第67期 #7

テクテク、テク

わりあい家の中が好きな僕に対して、君は外が好きだった。


「散歩が、好きなの」五歩ほどスキップをして僕の前に出て、振り返った君がそういった。寒いだけ、と言いかけてやめたのは、マフラーに突っ込んだ口を外に出すのが面倒くさく感じたから。揺れる粉雪に濡れる肩も気にしないで歩いた。

「どうして好きなの?」なんて聞かなかったけれど、君は僕の気持ちを見透かしたかのように答えだした。「あのね、散歩って意外と冒険っぽいの。なんていうか、いつもの道を歩くんじゃなくて、知らない道を歩く。それが楽しいんだよ。特に晴れた日はね」

僕はだんだん疲れてきて、足が上がらなくなってきた。そうするとスニーカーがアスファルトにすれてザー、ザー、と音を立てる。君はスキップで変わらず軽快な音を奏でる。この音が好きだ、そう思った。景色はあくまでバックグラウンド。青い空と舞い散る雪があって、一定のリズムから、たまに君の歌声が聞こえる。そのうち僕の声も入って、いつの間にか散歩ライブが始まっている。これが好きだった。



「散歩、いこ?」はじめはホントに嫌だった君の決まったセリフも、知らないうちに気にならなくなっていた。どっちかというと乗り気な感じで、「おう」と言うと僕はいつものマフラーと手袋とジャケットを羽織って外に出た。冷たくて甘い散歩道に。










だんだん疲れてきて、足が上がらなくなってきた。そうすると古くなったスニーカーがアスファルトにすれてザー、ザー、と音を立てる。雑であまり綺麗じゃない僕の音を素敵なバックミュージックに仕立てる君のスキップは聞こえなかったけれど、僕はマフラーからかわききった口を出して、大声で歌った。あの日君と歌った歌を、大声で、歌った。


それから泣いた、冬の散歩道。



Copyright © 2008 イス川 / 編集: 短編