第67期 #6

かき氷

「なついあつには、かき氷だね。」

また言ってる。何度聞いただろう。
あなたのくだらない言いまつがい。
たった2回しかなついあつを二人で過ごしていないのに。
あなたは何度も同じ言葉を、いつも同じ言葉で、私に言ったね。

お気に入りの喫茶店を見つけたのは私だった。
はじめて来たのは、母とだった。
すぐにあなたと一緒にまた来ようと思った。
連れて行くと案の定、あなたも一発で気に入った。

その店には何種類ものかき氷があった。
全てのみつは自家製だとメニューに書いてあった。

生姜黒糖に、梅みつ、小夏、宇治金時、今日はみぞれ。
まだ食べて無いのは、イチゴとレモン。

「全部制覇するんだ!」って子供みたいにあなたが宣言したのははじめて行った去年の夏だった。

全種類食べる頃のなら、2回めの夏が終わってしまうな。

その前に言わなきゃね。最後の言葉を、わたしから。
もう、イチゴとレモンは一緒に食べられないって。
制覇しようねって約束したのは、私じゃなかったもん。
あなただったよね。

だから、いい?

言っちゃうよ。

行っちゃうよ。

夏が終わるんだ。終わるんだ。
それと一緒に、わたしたちの関係も終わるんだ。

私は行くよ。行くよ。

あなたなしの人生を選ぶんだ。
後悔するかもしれない。
何度も自分のだした答えに、押しつぶされそうになるかも
しれない。
それでも、わたしは行く。あなたなしの人生を行く。

あなたはどんな顔をするだろう。
泣いてすがるだろうか。
それとも笑顔で受け入れちゃうんだろうか。

分からないや。

どっちも寂しい。
あなたのいない人生を歩くのはやっぱり寂しい。

でも行く。決めたんだ。わたしはわたしの道をいく。

それが答えだ。

わたしが出した最後の答え。



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