第67期 #4

その男には一つの信条があった。悪を撲滅させねばならない。世の中には悪がはこびっている。悪を撲滅する、それがただ一つの信条であり生き甲斐だった。民衆は犯罪が怖いと政治家に文句を言うくせに自分では何もしようとしない。奴らの中にも悪の元凶が潜んでいるかもしれない。きっとそうだ。おとなしい顔をして心の中は悪。犯罪などそうして生まれるのだ。男は自分が何をするべきか考えて悪を直接取り締まる職業、つまり刑事になった。もちろんそう簡単になれたわけではない。毎日厳しく精神と肉体を鍛え長い年月と警察での訓練をえてのことだ。くじけそうになっても信念だけが男を動かしていたのだ。刑事として悪を追ううちにやがて全ての元凶ともいうべく謎の大組織が浮かび上がってきた。その組織は銃、麻薬、売春、賭博など主な犯罪の全てに関わっていた。中小様々な犯罪組織も全てなんらかの形でその組織に関わり、ライバルとなる組織はことごとく潰されていた。メディアもその組織のことになると取り上げない。警察上層部に聞いても「その組織には手を出すな」と言うだけ。よっぽど政府の高官に息がかかっているのだろう。しかしそんなことでめげる男ではなかった。苦労の末、男は組織の本拠地と組織名をつきとめた。男は信頼できる部下を数名つれ本拠地に乗り込んだ。警察が来ることなど予想していなかったのだろう、戸惑う悪人達に次々と手錠を掛け奥へと進む。途中悪そうな男達が立ちはだかるも男は怯む様子も見せず手錠を掛け進みとうとう最後の扉に手を掛けた。扉を開けるとなんとそこには大きい赤い鬼。にやにやしている。部下がびっくりして銃を発砲してもびくともしない。「なんだ。悪が相手なら人間を追えよ。俺は人間の悪事を代行してるだけなんだぜ。」男は一瞬戸惑ったがそこで止めるわけにはいかなかった。悪は悪なのだ。するとそこに白髪の老人が現れた。神聖なオーラを放っている。「すまん、正義感の強い人間よ。わしは神じゃが人間があまりに悪いもんじゃからわしの手におえなくての。鬼に人の悪を代行させていろんな悪が増えないようにしてるのじゃ。」
男は少し考えたがあきらめることにした。神がついているのだ。鬼に金棒どころではない。それに悪が多すぎるのは事実。鬼が代わりに程ほどにやっていればそうひどいことにはならないのかもしれない。悪が一体なんなのかなんて気にするものか。神様が決めてくれるだろう。



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