第67期 #3

狩人〜闇の支配者〜

 心と裏腹の晴天に、俺は思わず唸った。ビルの屋上から望む事の出来る街には笑顔が溢れている。
「平和だな」
 皮肉げに呟く俺の横で、笑い声が響いた。見ると長年の相棒が笑っている。
「何だよ?」
「僕達に平和は不釣り合いだよ」
 少年はちらりと俺を眺め、唇を持ち上げた。
「まぁな」
 俺は口の端を歪める。漆黒の衣服を纏った俺は、『人間』ではない。
 少年は微笑み、手を差し出した。
「さあ、時間だよ」
 先程まで漆黒だった瞳が朱く染まり、俺を見つめる。
「強欲な社長の顔を拝みに行こう」
「俺は別に見たくない」
 煙草を投げ捨て、悪態をつく。
「まだ言ってるの?」
 仲間内では知らぬ者が居ない程の女好きに苦笑する。
「チッ……! 野郎なんぞ瞬殺だ」
「いや、それ無理だから」
 ぼそりとツッコム相棒を睨み、意識を背中に集中する。コートが音を立てて翼へと変化する。
「行くぞ」
 少年は頷き、一瞬にして大鎌へと姿を変えた。少年だった物を掴み、酷薄に嗤う。
 狙うはただ一人。強欲で知られた男。
「愚か者には制裁を」
 アスファルトを蹴り、空を舞う。
 悪を重ねた者にはそれ相応の死が訪れる。
 その力を行使する者達を、人はこう呼ぶ。
 −−『死神』−−と。



Copyright © 2008 水崎遊離 / 編集: 短編