第66期 #3

淑女渇望

 パパとママとフィアンセのレスマンが死んだ、と聞かされたのは、二日前のこと。グランマは大慌てで私の寝室に駆け込んできて私にそう伝えるや否や、私のベッドに倒れるようにして泣き崩れた。家が燃えてしまったのだと、あとから使用人のマリアンに聞かされた。そして家に火を付けたのが、幼馴染みのマーカスだったということを、葬儀の報告に来た叔父様が教えてくれた。
 私が郊外にある別荘のベッドの上で休んでいる間に、総ては起こって、そして終わってしまった。愛しいグランマはショックで寝込んでしまっているらしい。使用人たちも私に気を使ってか、あまり私の居る部屋には近づかなくなった。
 パパとママと、レスマン。
 最後に会ったときケンカをして、ひどいことを言ってしまったのに、もう謝ることもできない。ただ私はマーカスを馬鹿にされるのが嫌だっただけなのに。最後まで分かりあうことはできなかった。
 そしてマーカス。
 まるで双子のように気が合うと、幼いころは言われていた。愛しい愛しい私の片割れのような人。どうして。
 「リア、ちょっといいかい?」
 ドアの向こうで叔父様の声がした。
 「叔父様?ごめんなさい。今とてもみっともない格好をしているの。こんな姿でお会いしたくないわ。」
 私がしとやかに言うと、叔父様は「君も立派なレディになったな」と、ドアの向こうで笑ったようだった。
 「そうか。ならドア越しで失礼するよ……あまりよくない知らせだが、マーカスが護送中に逃げ出して、まだ見つかっていないらしい。彼はここを知らないし、心配ないとは思うが、一応、知らせておこうと思ってね。それだけだ。」
 コン、一回、叔父様はドアをノックした。
 「そう……、叔父様、わざわざおっしゃってくれてありがとう」
 「いや、それじゃあ、失礼するよ」
 そう言って、叔父様の足音は遠ざかっていった。
 「大きな声で話したから、喉が枯れたわ」
 私は一つ咳払いをする。後ろから私を抱きかかえるようにしていたマーカスは、私の喉からナイフを離した。
 「どこが立派なレディだ……嘘が上手くなったな、リア」
 そう言って彼は私の腰に手を回して、私を抱きしめた。
 「来てくれてありがとう、マーカス」
 彼の首筋に頬を寄せる。
 「これでいつでも、あなたの傍で死ねるのね」

 



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