第66期 #24

さあ、みんなで!

 猿飛佐助は、早く温泉に入りたくてしょうがなかったので、他に客が見当たらないのを良いことに、「よいしょ!」と大きな声で叫び、一回ジャンプしてから空中で服を脱ぎ捨てた。肌身離さず持ち歩いている秘伝の巻物を、忘れずに頭の上に乗せると、彼は「お待たせ!」と温泉に声をかけつつ、露天風呂方向へ飛び出した。
 と、そこで彼は、悪の忍者集団と目が合った。
 湯船の中には、もうこれ以上一人も入れません。というくらいにぎっしりと、悪の忍者集団が詰まっていたのである。
「ふっふっふ」悪の頭領は手ぬぐいで顔を拭きながら不敵に笑った。「驚いたかね。毎度おなじみ、我々悪の忍者集団一同は、完全に気配を消しながら温泉に浸かっていたのだ」
「ちょっと。よしてよ。温泉に入りたいよ」と、猿飛佐助。
「猿飛くん。今日の君は温泉に入れないどころか、見てご覧。大ピンチだ。今、脱衣所の方にも大量の悪の忍者が回り込んでいる。とても逃げられないよ。それに数えきれないこの人数。丸腰の君がどうはしゃいでも全員ぶっ飛ばすのは無理」
「す、すげー。すげーいっぱいいる」
「猿飛くんよ、我々が用があるのは、君が頭に乗せている秘伝の巻物だけだつまり、巻物さえ渡せば状況は一転。我々はドロンし、君はゆっくり温泉に入れるということになってくるね。ここはひとつ、仲良く話し合ってみないか。こっちはいつだって話し合う用意はできてるんだよ」
「ウソつきたくないから一応、事前に言っとくけど、秘伝なんてないよ。幻だよ」
「しかし、君が頭に乗せているその巻物は幻じゃないね。ちょっと見せてみなさい。」
 猿飛佐助はそれには答えず、息を吸って吐いてしてから「ヘイ身体能力」とつぶやき、手首の間接をぐるぐる回し、アキレス腱を伸ばし始めた。
「どういうつもりかな、猿飛くん。運動するのかな」
「カミングスーン」と、猿飛佐助。
「ふうーん。あ、そう。できることなら、一般のお客さんの迷惑にならないよう、穏便に済まそうと思っていたが仕方ない。……力づくで行こ!」
 次の瞬間、悪の忍者集団一同は、「満員御礼!」と叫びながら、裸一貫で飛び上がった。ミネラルを豊富に含んだ水しぶきと共に、全員総出、一糸まとわぬ動きやすい格好で襲いかかる。
「全員ぶっ倒すのが無理かどうかは、お釈迦さまでもわからねえ」
 猿飛佐助は、巻物に記した秘伝を思い出していた。そこにはただ一行、『退屈ってやつさ』と、書いてある。



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