第66期 #21

オレンジ

 手を太陽にかざし、指の隙間から覗く色。
 それほど多くない面積からもれる光の色は、とても眩しい。サングラスをはずし、おもむろに手をかざしてみた理由は、別段たいしたものじゃない。知っていたはずのこの色を、もう一度確認してみたくなった、ただそれだけだ。
 昼夜逆転生活が長くなり、ネオン街の光が太陽代わり。煙草・酒。時折ではなく頻繁に目にする嘔吐物や、滴り落ちている赤黒い血。その臭いを嗅ぎながら、悲鳴や嬌声が音楽代わりに鳴っている。それが今の日常だ。
 
 その日常から非日常、つまり日中に歩くことができた。なんてことはない。今の仕事にケリがつき、束の間の休息だ。そこでふと、かざしてみたのだ。
 まぶしさの中、手が影になり、隙間からあふれるオレンジの色。
 やらなきゃ良かったと思ったものの、フラッシュバックのように子どもの頃を思い出させた。
 あの頃。そう子どもだった頃。少年野球リーグに入り、新緑のあふれる中ときには泥だらけになり、白球を追いかけた。そして時には仰向けに寝転がり、仲間と共に両手を太陽にかざして、このオレンジ色を見ていた。



 つと、自嘲する。
 2,3日後には多分また新しい仕事が始まる。
 こんな真昼間に出歩くことはなく、太陽は街のあちこちにある看板だ。
 目についた店で、オレンジを袋いっぱい買い込んだ。ほんのしばらくはモノクロの部屋に、この色が、昔と今を繋げてくれるだろうと、どうしようもない自嘲を込めて。



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