第66期 #15

右手と左手の会話(ソナタ形式)



目覚まし時計のベルが鳴ったよ。

(でるりらでん)

いや電話のベルだったかな、いいや、いいや、時計でも電話でもないかもしれないな。

それなら一体なんなんだ。

ほら。

(どるでぇりどん。じょるじぇりじょん)

響きがとまらないよ。

蜂の音かもしれないぜ。

(ぶううん。ぶんぶんぶん。びゅうんびゅん。じゅうんじゅん、でゅうんでゅん)

ほら、蜂の音かもしれないぜ。

刺されるのかな。

どうだろう、それは君の心がけ次第かもしれないな。何か悪いことしたんだろう。

したよ。

何をしたんだい。

さあ。

(すっとこどっこい!)

あれれ。

音が大きくなってないか。

(ずるっどんアジャパー)

ん? 

アジャパーって聞こえなかったか。

(どぅびちょんジャンパー)

ジャンパーだったぜ。

ベルでも蜂でもなかったのかな。もうどうでもよくなってきたよ。

よかないよ。



ねえ。

なんだい。

「音を消すには耳を潰したらいいのかな」

試してみるかい。

痛いの嫌だよ。

なら消せないな。

君はどうしてるんだい。

「俺は黙ってるだけだよ。すべては止まるのを待つだけだ。恐がらない。かといって卑屈にもならない。天気と同じさ。傘を持たないで外に出て雨が降るだろう? 慌てて走っても濡れるときはびしょぬれなんだ。濡れてみるんだ」

(ぽっぽー)

(ぽっぽー)

鳩? 機関車?

(ぽろぽろ、ぽろぽろ)

涙?

ところで君がした悪いことは誰かを傷つけたのかい。

多分ね。

謝ったのかい。

まだだよ。

謝ろうか。

……。

俺もついていこうか。

ほんとかい。

「肝心なのは君が心から謝ることだ」

(おい、おまえ調子よすぎるぞ、隠し事あるだろう?)



謝ってきたよ。

そうか。

うん。

ベルはまだ聴こえるかい。

聴こえないよ。

俺も聴こえなくなった。

(アンタ嘘つきなサンタ!)

静かだね。

帰ろうか。

帰ろう。

春なのに冷えやがる、畜生め! おい、血じゃないか。

実は指一本切り落としたんだよ。

やられたのかい。

自分でやった。

どうして。

「……」

かっこつけやがって。

でも痛かった。

涙でたかい。

変な音がしたよ。

どんな。

ベルみたいな。

それみろ、あのベルも相手の音だったんだ。

今度こそ本当に帰ろうか。

いや、帰れない。

なぜ?



「実は俺のベルは鳴り続けてる」

(やっと白状したな!)

飲まないか。

その前に俺も指を切る。

(シュー……じりりりん!)

飲むときくらい我々の切り落とした指のために乾杯しようか。

ああ。

雪が降ってきた。

そうだね、春の雪だ。

では行くかな。

ついていくよ。

(とぼとぼ、とぼ)


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