第66期 #15
●
目覚まし時計のベルが鳴ったよ。
(でるりらでん)
いや電話のベルだったかな、いいや、いいや、時計でも電話でもないかもしれないな。
それなら一体なんなんだ。
ほら。
(どるでぇりどん。じょるじぇりじょん)
響きがとまらないよ。
蜂の音かもしれないぜ。
(ぶううん。ぶんぶんぶん。びゅうんびゅん。じゅうんじゅん、でゅうんでゅん)
ほら、蜂の音かもしれないぜ。
刺されるのかな。
どうだろう、それは君の心がけ次第かもしれないな。何か悪いことしたんだろう。
したよ。
何をしたんだい。
さあ。
(すっとこどっこい!)
あれれ。
音が大きくなってないか。
(ずるっどんアジャパー)
ん?
アジャパーって聞こえなかったか。
(どぅびちょんジャンパー)
ジャンパーだったぜ。
ベルでも蜂でもなかったのかな。もうどうでもよくなってきたよ。
よかないよ。
●
ねえ。
なんだい。
「音を消すには耳を潰したらいいのかな」
試してみるかい。
痛いの嫌だよ。
なら消せないな。
君はどうしてるんだい。
「俺は黙ってるだけだよ。すべては止まるのを待つだけだ。恐がらない。かといって卑屈にもならない。天気と同じさ。傘を持たないで外に出て雨が降るだろう? 慌てて走っても濡れるときはびしょぬれなんだ。濡れてみるんだ」
(ぽっぽー)
(ぽっぽー)
鳩? 機関車?
(ぽろぽろ、ぽろぽろ)
涙?
ところで君がした悪いことは誰かを傷つけたのかい。
多分ね。
謝ったのかい。
まだだよ。
謝ろうか。
……。
俺もついていこうか。
ほんとかい。
「肝心なのは君が心から謝ることだ」
(おい、おまえ調子よすぎるぞ、隠し事あるだろう?)
●
謝ってきたよ。
そうか。
うん。
ベルはまだ聴こえるかい。
聴こえないよ。
俺も聴こえなくなった。
(アンタ嘘つきなサンタ!)
静かだね。
帰ろうか。
帰ろう。
春なのに冷えやがる、畜生め! おい、血じゃないか。
実は指一本切り落としたんだよ。
やられたのかい。
自分でやった。
どうして。
「……」
かっこつけやがって。
でも痛かった。
涙でたかい。
変な音がしたよ。
どんな。
ベルみたいな。
それみろ、あのベルも相手の音だったんだ。
今度こそ本当に帰ろうか。
いや、帰れない。
なぜ?
●
「実は俺のベルは鳴り続けてる」
(やっと白状したな!)
飲まないか。
その前に俺も指を切る。
(シュー……じりりりん!)
飲むときくらい我々の切り落とした指のために乾杯しようか。
ああ。
雪が降ってきた。
そうだね、春の雪だ。
では行くかな。
ついていくよ。
(とぼとぼ、とぼ)