第65期 #25
そういえば、酒を飲んでいたのだっけ? 少し息苦しくて、頭の中がくわんくわんと定まらない。私はそれを払拭するかのごとく、体を左右にぶるぶると。ベッドから落ちそうになり、はたと抱き枕にしがみ付く。
ふと、目を開けると嶋野の顔が目の前にあった。近い。思い切り目が合う。
「目が覚めましたか?」
「……何でこんなところにあんたがいるの? 吃驚した」
私は目を見開き、彼は眉を顰める。
「先輩が飲み会の後、俺をここまで連れてきて離さなかったんじゃないですか。ひどい酔っ払いだなあ」
私は抱き枕代わりに彼に抱きついてしまっていたようだ。不覚。
「ごめん。迷惑かけて……」
すぐに離れようと身構える私。ところが、彼は私から離れようとせず、そうっと抱きしめてきた。
「先輩、ちょっとだけ、こうしていてもいいですか?」
私は何も言わず、そのまま抱きしめられていた。お酒の匂いが少し、あとは柔軟剤っぽい洗剤の香りがした。
「何か落ち着くなあ。嶋野、お父さんみたい」
「え? 僕、まだ若いんですけど……」
彼は笑っていた。優しい心地で私はまた眠ってしまいそう。すると、彼はぎゅっと力を込める。
「僕は先輩にもっとドキドキして欲しいんだけれどな。僕のことで喜んだり悲しんだり、感情の起伏をもっと表面に出して欲しいです」
そう言って、彼は真っ直ぐ私を見つめた。私は彼に何か伝えたかったが、唇を動かすだけで上手く言葉にならなかった。
彼は柔らかく微笑んだ後、優しく私にキスしてきた。私は素直に受け入れる。
「……嶋野、上手」
「ありがとうございます。僕は先輩が気持ち良いと思うことなら、何でもしますよ」
「……じゃあ、嶋野、もっと」
私がそう言うと、彼はにっこりと笑って私の頬を撫でる。そして、さっきよりも、もっと気持ち良いキスをしてくれた。そこで、ようやく気付く。多分、私は嶋野のことが……。
その時、部屋の電話が鳴った。
「ごめん。ちょっと……」
私はさりげなく彼から離れ、電話のところへ行く。そして、冷たい受話器を手に取る。
同級生の声だった。
「もしもし、飯島だけど。ごめん、寝てた?」
「ううん、大丈夫よ」
私は何となく、彼が何の用事で電話してきたのか分かった。本当は思い出したくなかった。そう、明日は……。
「明日は嶋野の四十九日だったよな? お前も行くよな?」
私はベッドの方を振り返る。そこにはもう彼の姿はなく、ただ抱き枕だけがぽつんと。