第65期 #2

思慮深い人

もしも、そう、もしも明日地球が滅ぶとしたら。君は残された時間にいったい何をしたいですか? そんなベタな問いかけをオレは何度聞いただろうか。
まさかそれが本当になるとなんて思っていなかったから、オレは最後の一日は豪遊して過ごすと言って笑ったものだ。有りっ丈の酒を飲み、旨い物を食い漁り、あるいは街へ繰り出そうか。もしも冬なら絢爛豪華な服を着飾って、札束を燃やした炎で暖をとろう。

 気取って何もしないなんて答えたこともある。普段通りに過ごして死すべき時を待とうだなんて大人っぽくて渋い、かっこいい。いつも通りで十分、余裕のある大人の台詞だ。
家族と過ごしたいなんて言ってみても、平凡だし、一般的な家庭ではありきたりじゃないだろうか。まぁ、家族と最後の晩餐くらいはしておきたいものだが。外食が良いか、それとも家族の手料理だろうか。
いや、そもそも、明日地球が滅ぶとしたらレストランだって臨時休業だろう。それに、豪遊にしたって、オレをもてなすはずの誰かにも家族があるわけだし、最後のひと時を使うことがないであろう金で売り渡すなんて馬鹿な話だ。とすると豪遊は無理だ。

 何をしようにもどうしようもない。今まで何度考えたかはわからないがそのときにはリアリティがあまりに足りなかったから想定にもなっていない。イメージトレーニングすらしていないのにそんな重要な考えをいきなりまとめられる訳がない。
 ああ、どうすればいいんだ? 急に明日地球が滅んでしまうなんてこんな馬鹿なことがあっていいのか? オレは認めないぞ。認めない。なんて言った所で地球が滅ぶんだろ。
どうしたらいい、助けてくれ。

いっそこの際、犯罪でもしてやろうか? どうせ捕まる事はない。もし捕まっても明日までの命に変わりはない。なんて今更何をする? そもそもオレはそんな極悪非道な人物ではない。ああ、最低だ。オレは最低なやつだ。
 さて、どうしよう。あれでもない、これでもない……。



オレの場合、そんなことを考えているうちに地球が滅んでしまうと思います。



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