第64期 #4

真夜中の待ち合わせ

午前2時。タイムオーバだ。
加也は携帯のディスプレイに溜息を落とし、パチンとそれを閉じると、部屋の明かりを名残り惜しく消してベットに潜り込んだ。
もう2週間が経とうとしている。
すっぽりと頭まで布団をかぶった暗がりの中で、加也は指折り数えた。
もう、2週間会ってないんだな。
溜息が自分へ追い討ちをかける。いい加減自分に飽きたのかしらと、自虐的な思いに身を委ね、そんな自分がまた情けなくなった。
もともと誠実な恋じゃないのは理解している。しかしもう、そんなジレンマに苛まれることもなくなった。感覚麻痺とはこのことだろうか。
目をつむる。しつこく溜息を一つ。聞こえてしまえばいい、と思った。
そのとき枕もとの携帯が、待ち焦がれていた特別な着信音を歌いだした。飛び起きてベットに座り込み、携帯をつかみ取る。なんて素早い動作だろうと自分で関心するくらい。
「……もしもし」
聞こえてくる声は、いつも通りの言葉を紡ぐ。
「いや、起きてましたよ、まだ。え、来るの?」
優しい声、暖かい声。今だけは、自分のためだけの声。
「……いいですよ、来ても。……うん。じゃあ10分後に。」
電話が切れる。加也はベットから降りて洗面台へ急いだ。鏡を見つめて、寝グセをチェックする。顔を洗っておいた方がいいかな、メイクは……この時間じゃ不自然か。手櫛で髪を整えて冷えた体を腕で囲む。きっともうすぐ自転車の音が聞こえてくる。
自分の脈が少しだけ早くなっていることが分かった。自分が喜んでいることが分かった。それだけにこの待つ時間が寂しくなる。
きっとまた彼女さんと喧嘩したんだ。
落ち着こうとベットに腰掛けながら、いつもそんな邪推をする。
自転車の音が近づいてきて、階段を昇る足音が大きくなる。
加也はチャイムが鳴ってからゆっくりと立ち上がった。
ドアを開けると彼が寒そうに立っていた。
「こんばんわ」
にっこりと笑顔で言い、部屋へ招き入れる。
ドアが閉まる瞬間、加也はこっそりと、罪悪感を外へ放り投げた。



Copyright © 2008 柊葉一 / 編集: 短編