第64期 #3
日曜日の午後は、家の近くの喫茶店で時間を潰すのが日課だ。仕事の事みたいな面倒な事を忘れて、のんびりとした暖かいひとときを過ごすのだ。
いつもと変わらない時間に喫茶店に入ると、いつも店に入る時と同じウェイトレスが店内を歩き回っている。
手近な席に座ると、最寄のウェイトレスが歩いてきた。綺麗に掃除された店内が輝いて見える。
近くを歩いていたウェイトレスに注文を聞かれて、いつもと同じようにミルクティーを頼んだ。「かしこまりました」と言って歩き去って行くウェイトレスを見ながら、いつもと変わっていない事にささやかな安堵を感じた。
最近疲れているような気がする。日曜日に家から歩く、ほんの僅かの距離だけでも、足が重くなっていく。きっと連日連夜の残業のせいなのだろう。
ミルクティーはまだかと店の隅々まで見ていると、向こうから歩いてくるウェイトレスが視界に入った。真新しい制服に身をまとって歩いてくる。ミルクティーを持っていた。
「お待たせいたしました」
ミルクティーを置き、決まり文句を残すと店員は、恐らく人が足りないのだろう。早足で歩き去っていった。
早速、暖かなミルクティーに口を付ける。柔らかな香りが鼻をくすぐった。
湯気の立つミルクティーをテーブルに置いて、ゆっくりと溜息を吐いた。溜息を吐くと、辛い事が飛んでいくようだった。
ただの気休めだけれど、大事な憩いのひとときだ。
だが、そんな憩いのひとときにも限界が訪れる。大人として生活している身には、どうしても「時間」という物が存在するのだ。
どれくらいそうしていただろうか。
トゥルル……と携帯電話が鳴り響く。聴き慣れた自分の携帯の着信音だった。携帯の画面を開くと一件のメール。
携帯の機種を変更してから二年半で、ボタン操作にも随分手馴れた。メールの画面を開くと、思わずへこむような内容が書かれていた。正直無視したくなるような、「今から休日出勤」のメール。
今までに前例のない事だった。会社は中小企業だったが、残業だけで、休日にまでツケが回るような事は今までに無かった。とうとう切り詰めて営業していた所にヤキが回ったのだろうか。
眺めるだけで楽しんでいた、丁度良い温度のミルクティーを一気に飲み干す。腹が熱くなる感じを味わう時間も無く、とりあえずレジへと向かった。
ミルクティーには高めの二百円を払って外に出た。来週もまた来ようと、来る度に思う。