第64期 #2

お支払いはカードで。

カードで。
口癖になってしまったみたいだ。
なんて素晴らしいんだろう。
これさえあればどんなものだって買える。
所詮世の中は金。何で今まで気付かなかったんだろう。
「お支払いは?」「カードで。」
なに、後で返せばいいんだ。後でね。
仕事も辞めて遊んで暮らすことにした。

今日も起きると、予約しておいたリムジンが出迎える。
確か、ママは宝石を欲しがってたな。
このリムジンの使用料は勿論、何から何までカードで払う。
どんなものも最高級品でないとね。
それにしても、貧乏人は可哀想で馬鹿だ。
なんでカードを作らないんだろう。
それに引き換え、僕は天才だ。僕は偉いぞ。
リムジンが宝石店に着く。
もう一回行くのは面倒だから、あれもこれも全部買ってあげよう。
初老の店員が何故か頭を下げてきた。恐れ入ったのだろうか。
店員は口を開いた。
「お客様のカードは会社側で引き止められている様なんですが‥‥」
どういうことだろう。でも、僕は他にもカードを沢山持っている。
「全部使えません。お客様、使いすぎではないですか?残高がかなり不足しているようです。」
僕は怒った。
貧乏人が何様のつもりだろう。僕に買えないものがあるだと?
僕は店員に掴み掛かると首を絞めた。暫くすると抵抗も止んで店員は白目を剥いて動かなくなった。
僕は周りの宝石をバックに入れると店外に飛び出す。

気分が悪い。タクシーで家まで帰ろう。
でも、折角だから高級な料亭で食事をしてから帰ることにした。
タクシーは待たせたまま。一番高いものを選んで食べた。
「お支払いは?」店主が言った。
「カードで。」僕は答えた。
「このカード、今は使えないみたいです。」店主の笑顔が怒りの色に変わった。
こいつも同じことを言う。
怒った僕は灰皿を投げつけた。
店主は灰皿が頭に当たると倒れてしまった。

さぁ、帰ろう。
家に着くとタクシーの運転手が訊いてきた。
「お客さん、このカード使えませんよ。現金はありますか。」
そんなものないと言うと運転手は怒った。
「一体、どれだけ待ったと思ってる。ほら、払いな。」
どいつもこいつもなんで、同じ事を言うのだろう。運転手を殴って気絶させた。

家では高いワインを飲む。
一人ではつまらないから女を呼ぼうか。
やけに外が騒がしいと思ったら突然、知らない男が入ってきた。
拳銃を突きつけて「金を出せ。」と言う。なんだ、強盗か。
「金を出せ。死にたいか?」
僕は落ち着いて答える。
「カードで。」
男は引き金を引いた。



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