第64期 #1
僕の仕事はロケット花火を分解して中の火薬を集めることだった。仲間の水城の仕事は適当な大きさの軸棒にそれを詰めることだった。
「ペンシルロケットってんだよ。」
水城は相変わらず偉そうに言った。
一号機はアルミのキャップに厚紙の尾翼を付けたささやかなV2ロケット。何事も小さい積み重ねから始めないといけないのだ、いきなり手を広げて失敗しちゃったお前の親父みたいになるからな、という水城の意見には賛成だった。今でもばかなオヤジは水城の親父と時々飲みに行って調子に乗っておごったりしてるみたいだが、しかし実のところやっぱり僕の家より水城の家の方が金がないのは変わっていなかったのだった。
感動の初打ち上げになるはずだった初号機は導火線がキャップの口にとどいた瞬間に軽く爆発した。
「成功に犠牲は付き物だろ?」
それよりも俺たちの失敗時の安全対策がうまく働いたということが証明されたじゃあないか。水城はいつもに増して早口だった。
「火薬はまだいっぱいあるか?」
「うん。僕んちもおまえんちも吹き飛ばせるくらいあるよ。」
「二号機作ろうか。材料探してくる。」
ここは家からはだいぶ遠い、昔に放棄された何かの工事現場跡地なので本体を捜しに行くには自転車で20分飛ばしていかなくちゃいけない。でも、誰かが違法投棄したゴミが目隠しになる上に、ここら辺は今イノシシ狩りの時期なので多少爆発音が響いたって誰も不審に思わない、僕らには絶好の場所だった。
もう夕方でところどころで真っ赤になっている紅葉が陰り初めていた。あいつが帰ってくる前に暗くなるかもしれない。僕はロケット花火を剥く手を止めた。ここからは街の明かりは届かない。これからだんだん空が暗くなって、太陽の光が力を失い、星が現れ暗い宇宙の色が見えてくる。大気圏を突破したらそんな感じだろうか。
これまで特に夢はなかったのだが、宇宙に行きたいとは思った。それ以外に特にやりたいことがない。水城が何を考えてるのかはわからない。ロケットの話をしたときだってあいつは軽く乗ってきた。きっと何にも考えていないのだ。僕と同じに。
このまま暗くなったらこのガラクタの中をどうやって帰ろうか。まあ、あいつが明かりを持ってきてくれるだろうけど。