第64期 #13
起き抜けに紅色のカーテンを勢い良く開くと、白紙よりも鮮やかな雪景色が広がっていた。この地域では冬でも降雪がめったになくて、今も雪は降っていないのだけれど、確かに玄関先には雲のようなものが地表を覆っていて、僕はすっ転びそうになりながらズボンを履き替え、ボタンをちぎりそうな勢いで上着を替え、毛皮のコートを羽織り階下に行った。両親の姿はない。チャンスだ。僕は扉を蹴飛ばし外に出、家の近くの公園に走ろうとした。その時にうっかり足を滑らせて頭を打った。雲は守ってくれなかった。
目を開けると、素っ気ない白色で一面が塗られた部屋にいた。ベッドも白いし服装も白い。目の前の女性の顔も白い。
「ほんまに、信じられん子やわあ。あんな所で頭打ちよるなんて」
「気ぃ付けぇよ。そんなことばっかしよるんやったら、おちおち出掛けることも出来へん」
二人は笑い合っていた。なるほどと僕は思った。頭の中は真っ白だった。