第63期 #5

潜入捜査官はだれだ?

 潜入捜査と聞いて俺は顔を青くし、首を横に振った。当たり前だろう。マフィア組織の中に潜入して、内部事情を調べてくるなど危険すぎる。せっかく今まで無難に立ち回ってきて、ようやく来週に安全な部局への異動が決まったというのに最後の最後でこんな大仕事をするなんて聞いていない。しかし、上司の命令は絶対だった。俺は潜入捜査をする事を承諾せざるをえなかった。すでに一人潜入捜査をしているから大丈夫だと上司は俺を慰めた。他人事だからって、冗談じゃない。
 俺は必死でマフィアの中でうまく立ち回った。何とか素性がばれずに数月が過ぎた。もう一人の潜入捜査官というのを探してみたが一向に見つからなかった。
数月の間に俺は警察らしからぬ所業をいくつかした。徹底的にマフィアを演じるためだからしょうがない。俺はなんとか組織の中で生き抜いた。ところがある日、俺はついに殺しの仕事をする事になった。この組織では殺しにはボスの許可が必要だった、俺はボスの部屋の戸を叩いた。
「ボス、隣組の北波多のやつが目に余るんで殺しましょうか。」
俺の言葉を聞いて、ボスは額の汗を拭った。
「やや、そんな物騒な。止めておこう殺しなんて。」
意外な言葉に俺は拍子抜けした。
「そんな甘いことを言っていて良いんですか?」
俺に付き添っていた俺の兄貴分の男がボスに言った。ボスは渋々と殺しを許可した。
 その夜、俺は隠れて本部に連絡した。携帯電話を握り締め、電話番号をダイヤルする。
「どうしましょう次に殺しの仕事をする事になってしまって……。」
俺が嘆いていると近くで同じような声が聞こえた。
「どうしましょう次に殺しの指示をする事になってしまって……。やっぱり潜入捜査なんて無理ですよ。」
悩ましげに聞こえてくる声はこのマフィアのボスのものだった。



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