第63期 #15

聖家族

「お父さんを許したわけじゃないからね」
 娘が言った。俺に顔を背けながら。二四日の夜の予定を空白にするよう命じられた。
 当日の算段を説明された。
 料理は妹が準備する。ケーキは俺が用意する。娘の彼氏も参加する。
「男がいたのか」
「はい」
 俺の浮気発覚以来寝室に篭城している嫁に対する計画を娘が発表した。扉をノックする手筈らしい。母親が参加したなら俺を許すと口の端に横皺を刻みながら娘は付け加えた。
 俺は実現度の低さを指摘した。

 俺の浮気相手の若い女にケーキの選択を相談した。
「娘は高校生だ」
「私も昔は高校生でした」
 俺は嫌味を言われていた。俺は弁解した。
 嫁の代わりに娘が家事を執り行っている。家事の最中はヘッドフォンで音楽を聴いている。そのヘッドフォンが二四日の話以降、外された。そして安定した家族関係を基盤にしないと浮気ができないと言った。
「なぜ?」
「きみに裏切られたあとに帰る場所が必要だ」
「いつか裏切るのはあなたのほうです」
 狡猾で小心者な人間でないと浮気はできないと俺は言った。だから両者とも裏切る可能性があると答えた。そして人間は誰でも狡猾で小心者だと教えた。

 俺、娘、娘の恋人で食卓を囲んだ。
 娘の恋人は自由だった。
「家族を不幸にした制裁だ」
 娘の恋人は俺を殴った。俺はソファに倒れこむ。不意打ちだった。
 ここは俺の家だ。
 俺は体を起き上がらせる動作にあわせて娘の恋人のみぞおちに頭突きをした。
 妹が俺に抱きついて止めた。
「キャンドルもターキーもブッシュ・ド・ノエルもあるんだよ」
 娘が感情的になったのは幸いだった。感情を昂ぶらせた人間は操作しやすい。
 ドアチャイムが鳴る。俺は唇の血を拭う。玄関で配達業者から薔薇の花束を受け取った。
「母さんへのプレゼントだ」
 俺は娘に嫁を呼ぶよう命じた。娘は無理と叫んだ。しかし嫁は自分から階段を駆け降りてきた。俺の前に姿を現すのは半年振りだった。
「まぼろしのアーティファクトをゲットしたの」
 オンラインゲームで希少なアイテムを入手したらしい。これを生身の人間に話したかったそうだ。俺は嫁に花束を渡した。
「みんなにも贈りたいものがある」
 俺は豆盆栽を全員に配布した。
「成長日記をみんなでブログにアップして競争しないか?」
 我ながら陳腐でかわいげのある言葉を用意できたと思う。周囲は苦笑していた。けれど事態が収拾の方向へ向かうのをよろこび安心していたはずだ。



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