第62期 #2

帰れない二人

 で、ラリッちゃったまんま見世物小屋に入ったの。ジミヘンだとかドアーズだとかいかにもなノイズ。周りは殆んど白人ばっかり、皆虚ろな目をして色んなものを吸ったり飲んだりしてた。私はあれは何、これは?って質問するのだけれど彼はあんなのは気にするなって少し怒っているみたいだった。あの連中はもう行き場を無くした骸だ。だけど僕らは違う。僕は明日バンガロールに発つし、君にも行くべき場所がある。そう言うと榊原君は私に約束事をさせたの。決してこれから何が起ころうとも自分を見失わない事。そしてそれらの行為に決して加担しないこと。どうしてハル子ちゃんを連れて来ちゃったのかは全て僕の原罪だ。彼は私の手を痛いくらいに強く握った。
 誰かがパーティーの始まりだって叫んだのが聞こえた。適当に設えたようなステージに客席から一人の男が上がると自分はベルギーからここにやって来て今ヘロインをやってて実にハイな気分だと陽気に語る。次の瞬間彼はこめかみに向けて銃を発射して倒れた。拍手喝采。突然まだ幼い位のインドの子供達が舞台袖から出てきて名もなきベルギー人をさらっていく。きっと本物のスイス製の時計はムンバイよりここの方が確かだと榊原君は言った。でもどうして銃がと言いかけたら今の世界に無いものは無いんだって彼は答えた。スウェーデンから来たカップルは性交しながら鉄製の万力に押しつぶされていった。やがてピストン運動が収束していくと二人は本当にシャム双生児のように見えた。それを見てアホみたいに笑っていた太ったアメリカ人は自らリンチを要求するとそれまで小屋の中に鬱積していた衝動がまるで箍が外れたように噴出し押し合いへし合いの中でアメリカ人の変態的な嬌声だけが殴打音の合間に響いた。小屋の中は嘔吐臭で充満していた。私も一度吐いた。狂ったように泣き叫んでいる赤毛の女は次の瞬間にはケラケラ笑い出した。まるでイカレてる。榊原君を見ると彼は冷静沈着としていた、が顔色が変わる。
 ステージ上に二人のインド人の青年が大きな麻袋を引きずり上げる。それはもぞもぞと動いている。周りの喚声に麻袋が鋭利な刃物で裂かれると象の足が出てきた。そして人の裸体。顔、榊原君!〈僕の双子の弟だよ。やっと見つけた〉榊原君の微かな声が聞こえた。観客からはブーの嘆息。あんなの見飽きたよ、誰かがそう口にする。虚ろな眼をした弟は兄の姿を捉えた。弟は兄を待ち続けていた。



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