第62期 #13
右腕を伸ばす。硝子の肌に、黝い血管が描画線ように走る。buildingの屋上には金属性の懶い風が吹いている。少年は爪を立て、辟易を込めて街を引っ掻く。艶めくtarのような細い筋が、見下ろした雑踏に散り怪人の唇を真似て歪んだ。その微笑が、黒光りする遺伝子を持って街を廻る自動車や人間達にmodulationを与え、帰る場所を密かに殺いでいる。水の予兆が聞こえる。精霊の踊りのように、遠くから、滔々と。少年はこの時を待っていた。波が来る。黒い狂濤が押し寄せる。滂沱として、街を飲む。少年は扉を開ける動作で両腕を拡げ、buildingの屋上から飛び立つ。降下。巻き上がる水煙の一滴一滴が風に研がれ、白い肌を沛然と穿っていく。眸から溢れた光芒が、流線型を成して少年を蔽う。足元からの驟雨が止んだ。少年は呼吸を止める。自動車や人間達は奥底に澱み、壮美なる沈黙を形成している。その、aestheticismとの交感。恍惚。薄甘い享楽の浸染を感じながら、少年は錯乱するimageryを解き放ち黒い海の渾沌へと消失していく。