第62期 #12

Can&Cannot

 初めてもらったものだった。
 なんてことはない。どこにでも売っているようなキーホルダー。
 それでも、とても嬉しくて、ぎゅっと握りしてたのを覚えている。
 もらったときは本当に嬉しくて、幸せで。あるのが当たり前になって・・・・・・。
 そして、辛くなった。
 当たり前で空気のようになったそれが、悲しみの重石になった。
 連絡がつかなくなって、そして来た彼の友人からの連絡。
「あいつ死んだよ。交通事故で」
 涙をこらえるように言う、あの声が、私の耳にまだ残っている。

 そして、また、月日が経ち、空気のようになったキーホルダー。
 今でもじっと見ると、思い出して涙がでたりする。      でも、ね。私、前を向いていくよ。
 あの時のことを忘れない。絶対忘れない。本当だよ。でも、思い出にさせて。楽しいことも悲しいことも、見ると、思い出しすぎるの。
 だからこれは――――
 私は思いっきり手をふり、川へキーホルダーを投げ捨てた。
 ごめんね、ありがとう。
 いらなくなって捨てたわけじゃない。
 瞬、あなたならわかってくれるって信じてる。



 初めてもらったものだった。なんてことはない。どこにでも売っているようなキーホルダー。でも嬉しかった。身近にあった。車のカギと一緒につけて、それを見るたびに笑む彼女が好きだった。
 いつしか手元にあるのが当然となって・・・・・・。
 それが悲しいものとなった。
 たまにはね、と別の場所で待ち合わせ。
 今でも思う。あれが良くなかったのかなと。
 遅れたことがない彼女が30分も来ない。その間にメール、電話。返事なし。家に行ってみようかと思った時、ダチからの着信。でも、電話にでたのはダチの彼女で。
 泣いていた。信じられない言葉の数々。交通事故。即死。
 それから俺はどうやって帰り、どうしたんだろう。
 今だから言える。ショックだった。

 手元に残ったのは、あのキーホルダー。今はもう傷だらけで、塗料すらほとんど残っていない。
だけど、見るたびに思い出す。カギからは外した。さすがにいつも見るのは辛すぎた。
 いつも夢を語ってた。楽しそうに将来を話すユキが好きだった。
 生きていていいか? そうつぶやくと、あの頃のユキが怒ったように、あたりまえでしょ、という顔が目に浮かぶ。
 ありがとう。
 来月、俺は結婚する。
 でもこれは・・・・・・。
 俺はキーホルダーをそっと引き出しにしまった。



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