第61期 #8
白熱していくにつれ誰もが負けられないという様相を呈してきた。
「みんな疲れてるから、そろそろ自分が負けて終わりにしてあげよう」といった心にゆとりを持っているものは誰もおらず、真に「俺以外なら誰もいい、はやく崩せ!」という心の叫びだけがその空間を支配していた。
時間は午前2時前。
前日からの睡眠時間も少なく、抜けない疲れをハイテンションで押さえこみ、酒が燃料代わりに注がれていった。
そこに展開されていたのは、友達という言葉を過去に変える敵対心むき出しのバトルロワイヤル6巡目。
もう取れないだろうと誰もが思ってから10個ほどの牌が抜き取られた。
微笑に隠された殺意が、成功者の心からの安堵が、自分まで回ってくるのかという極限の緊張がこのゲームの最高のスパイスとなった。
そんなとき今まで3回の失敗を犯している、某女性に順番が回った。
誰もが祈った。
彼女が崩れ落ちる瞬間を。
この緊張から解き放たれる瞬間を。
一つの牌の抜き取るのにどれだけの時間が費やされただろうか。
時間にして5分かそこら。
永遠とも思える5分だった。
………彼女は生還した。
彼女にはもはや、喜びはなくただ安堵の表情が浮かんでいるだけだった。
ほどなく次のチャレンジャーが死刑台へと向かう。
彼にいつもの笑顔はない。
彼は動かせそうな牌を懸命に探す。
それを見守る、いや崩れるように祈るかつての友達、もといエゴイスト達。
勝負は一瞬。
自分と心中する牌を彼は見抜き、指先に全身全霊を集中させた。
赤ん坊に触れるよりもやさしく、牌を撫でる。
乾いた時間だった。
牌をすこしづつずらし、牌の頭がタワーの外まで出た。
その刹那時間は動き出した。
無残に散らばる残骸。
敗者の声にならない叫び。
そして、見守っていた俺たちはこの上ない開放感に包まれたのであった。
敗者が失ったものは何もない。
ただ、悔しさと人一倍の疲労感を得たに過ぎなかった。
勝者が得たものも何もない。
ただ、なんでこんなに必死なんだろうという疑問が沸いたに過ぎなかった。