第61期 #7

そらいろ

 青かった。青くて広い空。
 いつも暇なときは屋上の貯水タンクに背をもたれながら見上げていた。
 もう誰も見てないと思う。
 高い建物が阻んでいるから。
 ただあるだけだと思っているから。
 でも、ほんとは違う。なんとなくわかる。
 そんな空を飛行機が飛んでいった。
 長い間空を見続けていたけど、飛行機なんてみたことはなかった。
 小さくて、黒色で、すごい速さで飛んでいった。
 でも誰も気づいていないと思う。
 だって、ただあるだけだと思っているから。
 後には、長くのびた飛行機雲が残された。

 白かった。白くて広い空。
 辺り一面雪景色。当然貯水タンクも雪まみれになっていた。
 誰もがみんな家の中にいて、暖房でもつけながらテレビを見ているんだろう。
 でも、窓から見える空はいつもと違う表情をしていた。
 曇る窓を、服の裾で拭きながらけなげにも見ていた。
 そんな窓の一枚に何か黒いものが見えた。群れをなして、こっちに飛んでくる。
 初めは鳥だと思っていたけど、近づいてくるごとに違うことに気づいた。
 それはこの前見た、あの小さくて、黒色で、すごい速さで飛んでいった飛行機と同じもの。でも、今度はたくさんだ。
 その不気味な群れは家の上を超えていった。
 そんなことはまるで最初から無かったかのように、静かに雪はこの街に降り続いていた。
 
 夜、ソファに横になってテレビを見ていた。
 さすがに眠くなってきた頃、テレビから何か叫び声が聞こえてきた。
 でも、気にせずに目を閉じた。

 何日か前から荷物を詰めていたバッグを持って、「いくわよ」とお母さんは家の外に出た。
 がらんとした家の中がどこか不気味で、早歩きのお母さんの後に駆け足でついていった。
 お母さんが向かったのはバス停だった。しばらくバスに揺られて、着いたのは病院だった。
 前に来たときよりも待合室にはたくさんの人がいて、でも、少しおかしいのは毛布を持った人がたくさんいることだ。
 同じような毛布をお母さんも持っていて、「今日はここに泊まるからね」とだけ言った。
 そとはもう真っ暗だった。
 
 目が覚めた。受付の明かりだけがついている。
 まわりの人の熱気で寝苦しかったから、気分転換に外に出ようと思った。
 でも、病院の中の暗さとは反対に、外は明るかった。
 空が燃えていた。
 ほんとにそう思った。
 頭上をあの小さくて、黒色で、すごい速さの飛行機が飛んでいた。



Copyright © 2007 藤城一 / 編集: 短編